斧の戦姫3
「ま、聞いての通り。こっちも最低限の働きはみせなきゃならないみたいなんで、アナタもできるだけ頑張りなさい。ウチのおっかないのを失望させない程度には、ね」
ニーアさんの言葉を受けたことで、渋々ながらも自身の役目をこなす気になったのか、レウナーレさんは自身の戦闘意欲を高めるように片手で軽々と斧を振り回した後、ガルムリードへとその切っ先を突きつけた。
「かっ! てめぇらの事情なんざ知ったこっちゃねぇよ。そもそも、こっちははなっからてめぇをぶっ飛ばすつもりでいんだ」
レウナーレさんを睨みつけ、歯を剥き出しにしたガルムリードは「だからよ」という言葉と共に両拳を地面につき、極限の前傾姿勢を取る。
「てめぇこそ俺を失望させんじゃねぇぞっ!」
叫ぶと同時、ガルムリードは両手足を同時に地面へ叩きつけるようにして自身の体を跳ね飛ばすと、超加速を得て彼女へと突撃をかます。
その跳躍は、ただ真っ直ぐに跳ぶということに特化したもので、相手の反撃などすべてを無視した突貫行為。
ただ、それだけに速く、先程の跳躍よりもそれはさらに一段階上の速度を叩き出している。
──だが。
「もちろん、そのつもりよ」
「っ!?」
軽い口調でそう言ったレウナーレさんは、ガルムリードよりも後で動き出したにも関わらず、目にも止まらぬ速度でその側面に回り込んでいた。
そして、真っ直ぐな跳躍に対して真横から斧による一撃を叩き込むと、強引にその方向を変えてみせ、それによりガルムリードの体は勢いよく直角に撥ね飛ばされてしまう。
「ぅがっ!!」
その衝撃はとてつもなく大きなものだったようで、ガルムリードは跳ねるように地面の上を転がり、周囲で見物していた者たちの下までいったところで静止する。
幸いそれに接触する者はいなかったようだが、巻き込まれては堪らないとばかりにその場を離れる者が現れる中、それとは逆に数人の冒険者らしき者は、ガルムリードのことを心配して助け起こそうとする。
が、その直前に「かっはっはっは」という楽しそうな笑い声と共に自力で起き上がってみせたガルムリードは、獰猛な笑みをその顔に浮かばせ、再度レウナーレさんの下へと駆け出した。
「いいねぇ。いいじゃねぇか、おい! こんな衝撃受けんのは初めてだぜ!」
上機嫌にそう言ってみせたガルムリードは、そのまま正面からレウナーレさんに飛び掛かりその拳を振るうが、真上から振るわれた斧により、それは当然のように押し潰される。
「……かっはっはっは。さいっこうだ。最高に痺れんぞこいつはよぉ! もっとだ、もっと寄越せっ!」
だが、ガルムリードは次の瞬間には飛び跳ねるようにして起き上がり、狂ったように笑い声を上げてそんな要求をしてみせた。




