療養
一ヶ月前。
ミリオのおかげでなんとか一命をとりとめた俺だったけど、血を流しすぎたせいか血色が悪く体温が冷めきっていたので、とりあえずということで、ミリオが自分の家に運び込んでくれたみたいだ。
それから丸一日の間ベッドで眠り続けて、次の日に一応は目を覚ましたわけなんだけど、血が足りなくて頭がふらふらするうえに全身筋肉痛と空腹感から正直あまり人に見せられたものじゃない有様になっていた。
そのときにミリオと、その妹クレアと顔を合わせたんだけど、余裕がなかったからちょっとぶっきらぼうな態度をとってしまったことを今も後悔している。
二人は特に気にしてないと言ってくれてはいるが、さすがに恩人に対してあの態度はない。いずれ何らかのかたちであの二人には報いたいと思う。
飯をたらふく食べたおかげでその日の夜には意識もかなり鮮明になっていたけど、大事をとってそれから三日間は安静に過ごしたので、その次の日にはもう完全に復調していた。
「と、いうわけで今まで本当にありがとう。この数日で受けた恩はいずれ数倍にして返すから楽しみにしててくれ」
体調が万全になった以上さすがにこれ以上迷惑をかけるわけにもいかないので、少し薄情に見えるかもしれないけど、名残惜しくなる前にこの家ともおさらばしようと思う。
「えっ? どうしたの急に。もっとゆっくりしていけばいいのに」
「いや、でもさすがにこれ以上はな。二人に迷惑ってのもあるけど、それ以上に俺が心苦しいっていうかさ、ほらこの数日無駄飯食らってるだけだし」
「迷惑だなんて思ってないよ。僕もクレアも、ね」
同意を求められたクレアはうんうんと頷いて、こちらに笑顔を向けてくる。
知り合って数日の人間をそんな簡単に信用するのは危険なんじゃないかと思うんだが、それがこの二人の良いところなんだよなー。
「それに、行くあてもないんだよね? 出ていくにしても最低限の準備は必要だしさ、それにまた外で倒れたりしないか心配だし」
「それを言われるとぐうの音もでないんだけど。あー、本当にいいのか?」
「うん。いいよいいよ。僕らもアスマが居てくれたほうが楽しいからね」
「……わかった。そういうことならお言葉に甘えて、もう少しだけお世話になります」
「うん。もう少しだけよろしくねアスマ」
こうストレートに善意をぶつけられると、むず痒いというか、照れ臭い感じがするけど、正直こういうのは悪くない。