二人の戦姫
翌日。
街外れにあるいつもの訓練場にて、俺たちは二人の戦姫と対峙していた。
「さぁ、誰からどちらと戦うんだ? 我々はいつでも準備万端だぞ」
掛かってこいとばかりに手招きをするニーアさん。
その隣では腕組みをする長身の女性、斧の戦姫レウナーレ・ウォルニゾンさんが微動だにしない立ち姿をみせていた。
──今現在どうしてこんなことになっているかというと、話は数十分ほど遡る。
一度ガルムの滞在している宿屋に集合した俺たちはその足でギルドに向かい、戦姫たちと顔合わせをしたのだが。
いくつかの問答の後、案の定そこでニーアさんが「では、君たちの実力を見せてもらおうか」と言い出し、「天気もいいし、どうせなら外で」と続けた結果、こうして俺たちは屋外の訓練場にやってきたわけだ。
ちなみに、戦姫たちの後ろに控えているソニアリスさんだが、彼女は戦姫ではなく二人の付き人だそうで、主に生活の世話や荷運びなどの雑事を担当しているらしい。
正直、彼女のことを戦姫だと勘違いしていたと本人に告げると、自分が履いているスカートを指差して「メイドのように見えませんか?」という謎の理論を展開された。
たしかに、なんでこの人は鎧姿なのにスカート履いてるんだろうとは思ってたし、武器も持ってないなとは思ってたけど、それだけで世話役の人かどうかなんて分かるかよって話だ。
しかも、戦姫に同行できるぐらいだから、たぶんこの人俺よりも強いだろうしな。
とまぁ、そういうわけで急遽決まったここでの模擬戦闘なわけだけど、戦姫がこの街にやってきているという話を聞きつけた人たちが周りにそこそこいるせいで、どうにも視線が気になって困る。
ほとんどはこっちのことなんて見てはいないんだろうけど、それでもな。
「はいはーい! レウちゃん、アンとやろうよ!」
俺が周囲を気にしてそんな風にまごついていると、アンネローゼがレウナーレさんを指名してみせた。
「ん、私か。ふぅ。今はあまり戦う気分ではないんだけど、しょうがないか。あー、頭痛い」
……どこからどうみても準備万端とは程遠いんだが、それは一体。
まぁ、準備うんぬんはニーアさんが言ってただけだからあれだけどさ。
やる気満々のアンネローゼと対照的に、やる気の感じられないレウナーレさんが、少し離れた位置まで移動しようとしたところで、ガルムリードがアンネローゼの肩に手を掛ける。
「おい、待て」
「ふ?」
「そういやぁ、お前は昨日剣の方とやったんだろぉが。だったら、ここは俺が先だろうがよ」
戻れと言わんばかりに、ガルムリードは掴んだ肩を引き寄せてアンネローゼをこちらへと投げ捨ててくる。
「おっと、大丈夫かアンちゃん」
「ふぇぇ。ありがとアー君。もう、ガルルンずっこいよー!」
「ずっこかねぇよ。あと、ガルルン呼ぶなっつってんだろぉが。ぶん殴るぞこら」
こちらに睨みを利かせながらも、レウナーレさんの下へと向かうガルムリードの口元は笑うように歪んでいて、その隙間からは獰猛な牙が顔を覗かせていた。
「待たせたなぁ。俺から先にやらせてもらうぜ」
「はいはい。どっちでもいいから、早いとこ終わらせましょ。二日酔いで頭痛くて」
「かっ! 舐め腐ってやがんなぁおい。いいぜ、今すぐその余裕ぶっ飛ばしてやっからよぉ!」