参考
『……うん』
と、頷いてみせるクレアだが、その表情はどこか浮かないもので、倒れてしまったことを気にしているのは一目瞭然だった。
なので、そこから気を逸らすために話の方向を変えてみる。
「というか、さっきの魔刃すごかったな。なんで急にあんなことできるようになったんだ?」
気にはなっていたことだ。
あのシャーロットでさえ、なぜそんなことができるようになったのかを分かっていないようだったし、差し支えなければその種を披露してもらいたい。
『……あれは……アスマ君の《思念会話》で繋いでた……魔力の流れを参考にしただけだよ』
「……えっと? ごめん、俺その辺りの感覚鈍いからよく分からないんだけど。つまりどういうこと?」
《思念会話》が領域内でも魔力経路を通すことができたことから、優れた魔力の流れを形成しているんだろうな、ということは分かる。
でも、それを参考にして云々というのが分からない。
そこに行き着くまでに結構大変な過程があると思うんだけど、それは?
『……えっとね……いつもはそこまで意識してなかったんだけど……シャロちゃんの作ったあの領域の中だと……普段よりも《思念会話》が通してる魔力の流れを強く感じることができたの』
「ほう」
いつもとは違って、領域内は妨害魔力で満たされているからその分魔力の流れが際立って感じられたってことかな?
『……だから……あの中でどういう風に魔力を流せばいいのかを感覚で覚えて……その通りに真似したらいつもよりずっと上手く魔力を流すことができたの』
「あぁ、なるほど」
まぁ、なるほどって言ったけど、その感覚自体は分からないんだけどな。
ただ、どうやって妨害をすり抜けることができたのか、それだけは分かった。
参考にしただけで普通そこまでできるのか? と思わないでもないけど、そもそも普通は魔刃を発現させることすらできないんだから、そこについてはいまさらだ。
クレアの魔力を感知する能力がそこまで優れているのは知らなかったが、魔力を操作する能力が普通じゃないことは明らかだからな。
『……でも……上手くできたのが嬉しくてそっちに夢中になってたら……いつの間にか剣がすごいことになってて……それでもっと嬉しくなって……気づいたら魔力がなくなっちゃってたんだ』
「ははっ、そういうことだったのか。それはまぁ、しょうがないな」
試してみたことが予想以上に上手くいった時って、妙に嬉しくなって盲目的になっちゃうことってあるもんな。
俺にも覚えはあるし、たぶん誰にでも一度は経験のあることだと思う。
大体最後にはどこか失敗に終わるから、あとで思い出して軽くへこむところまでで一括りの思い出だ。