寝ぼけ
夕食とその片づけ、その他諸々の雑事を終え、あとは明日に備えて寝るだけとなったところで、クレアの部屋を訪ねる。
扉を叩いてみても返事がなかったので、少し悪いとは思いながらも勝手に中へ入らせてもらうと、規則正しい寝息が聞こえてきた。
「まだ寝てるか」
起きていたなら寝る前に軽く話でもしようかと思っていたが、眠っているのなら仕方ないか。
と、話すことは諦めたが、最後に寝顔だけでも眺めていこうとしてクレアの下へ静かに近づいていく。
そして、その柔らかな寝顔に癒されつつ髪を撫でていると、クレアの体が微かに反応し、閉じていた目蓋がゆっくりと開かれた。
「っと、悪い。起こしたか」
やってしまったという気持ちで謝罪の言葉を述べると、クレアはその声に釣られるように寝ぼけ眼をこちらへと向ける。
『……ぁ』
寝ぼけているからか、声にならない声を上げたクレアは布団から手を出すと、中途半端に頭から離していた俺の手を取り、ふにゃっと緩み切った笑顔を浮かべてみせた。
それがあまりにも可愛らしくて思わず抱き締めてしまいたい衝動に駆られるが、寝起きでいきなりそんなことをされてもクレアがびっくりしてしまうだろうと思い、なんとか自重する。
「体の調子はどうだ? 気だるかったりとかしないか?」
『……んー……だい……じょぶ』
魔力切れを起こしただけなので、大丈夫だとは思いながらも念のために体調を尋ねてみたが、念話を使用していることからみても、どうやら問題はないみたいだ。
「そっか、ならよかった」
『……んー…………ん?』
と、気の抜けた返事をするクレアだったが、突然、ハッと我に返ったように何度もまばたきを繰り返し、次いで目を凝らすようにこちらを見詰めてきた。
『……アスマ君?』
「おう。おはよう、でいいのかな」
『……あ……うん……おはよう……あれ……私』
自分の置かれている状況がいまいち把握できていないのか、クレアは周囲へと視線を巡らせ、もう一度こちらへと戻してくる。
『……もしかして……倒れちゃった?』
「うん、魔力の使いすぎでな。いきなりだったからちょっとびっくりした」
『……あ……ごめんね……心配掛けて』
「いや、別に謝ることはないよ。頑張った結果としてこうなったわけだし」
まぁ、倒れるまで頑張る行為は褒められたものじゃないけど、だからといってそれを否定して怒るような真似はしたくない。
俺とシャーロットが見ている前だから、多少無理をしても大丈夫っていう信頼があってのことだろうしな。