睡眠薬
「ただいまー」
「おかえり、アスマ」
帰宅して、本日三度めの挨拶を投げ掛けると、食事の用意をしてくれていたミリオがそれに応えてくれる。
「どうだった? ガルムはなんて?」
「あぁ、予想通り「上等だ」ってさ。やる気満々だったよ」
「あはは、ガルムらしいね」
シャーロットの店を出た後。
家に連れ帰ったクレアをベッドに寝かせると、念のためにミリオへ声を掛けておき、その足でガルムリードの下へと向かった。
用件はもちろん、戦姫との顔合わせについての旨を伝えるためだ。
その際に、もしかしたら戦姫と模擬戦をするはめになるかもしれないけど大丈夫か? という俺の問いに対するガルムリードの返答が先程の「上等だ」という強気なものだった。
まぁ、あいつならそう答えるだろうという予想はしていたので、驚くようなことはなかったが、相変わらず自分に正直なガルムリードの姿を見て、なんとなく嬉しくなって笑ってしまった。
あいつの、ああいう真っ直ぐなところは大好きだからな。
「それで、クレアは? まだ寝てる?」
「うん、ぐっすり。でも、薬の効果自体はそろそろ切れるだろうから、そのうち起きてくるんじゃないかな?」
「え? そうなの?」
さすがの博識っぷりだけど、なんでそんなことまで知ってるんだよミリオさん。
「うん。以前、僕もお世話になっていた時期があったからね。効果時間が長い薬もあるそうだけど、それは副作用があるからクレアには服用させないだろうし」
「あー、そうなんだ」
……睡眠薬の世話になっていた時期、か。
それはたぶん、親御さんがいなくなった時のことなんだろうな。
ミリオはその時の心情をあまり多く語るようなことはないけど、精神的な面での負担は相当なものだったろうから、ストレスで眠れない日もあったのかもしれない。
そんな状態が続いたら普通の生活を送るのも困難だろうし、薬に頼ってでも無理やり眠りにつくというやり方は、間違いではないだろう。
俺も親父がいなくなった時は……いや、どうだったかな? もうあんまり細かくは覚えてないな。
ただ、今ミリオはそれを乗り越えてここまで強く生きている。それは素直に尊敬できることだ。その強靭な精神力は俺も見習いたいと思う。
「まぁ、そんなことよりもお腹すいたでしょ? ご飯できたから先に食べよう」
あまりこの話題を長引かせなくないのだろう。話を変えるようにそう言ってくるミリオに「そうだな」とだけ答えて食事の準備を始める。
なんにしても、今はしっかり食べてしっかり休むとしよう。
明日はまた色々と疲れる一日になりそうな気がするしな。