封魔領域15
「さて、それでは魔閃刃について解説していくとしようか。クレアちゃんのこともあるため、手早くな」
「あぁ。それで頼む」
クレアの体は軽いから大した負担にはならないが、ベッドで寝かせてあげた方がしっかりと眠れるだろうしな。
「言ってしまえば、魔閃刃というのは武器に高密度の魔力を宿したものだ。魔刃との決定的な違いは、魔力で武器を覆うか宿すか、という二点に尽きる」
「宿す?」
その言葉を聞いた瞬間、頭をよぎったのは《精霊宿し》というエルフ娘たちが使っていた精霊術のことだ。
あれは精霊の力を武器に宿すことで、一時的にその強力な力をすべての攻撃で発揮できるようになるものだった。
それを参考にしたのが魔閃刃なのかな? それとも逆か?
いや、どっちでもそれはいいか。でも、似ていること自体は気になるな。聞いてみるか。
「あの、話遮って悪いんだけど。それって《精霊宿し》みたいなもん?」
「……なんだ、あれも知っているのか? だが、あんなものと一緒するな」
シャーロットは首を振って否定の意を示してみせる。
「あれは精霊の力を借り受けることにより、魔力の消費やその制御を一切排したもの。ようは魔閃刃の完全上位互換というやつだ。比べるようなものですらない」
肩をすくめてみせるシャーロット、《精霊宿し》の異様な性能ぶりに呆れ果てているようだった。
「それと違い魔閃刃は宿した魔力をすべて自分一人で制御しなければならないために、魔刃を扱う際の何倍もの集中力と魔力操作技術が要求される」
それは、俺には想像もつかないほどに難易度の高い作業なんだろうな。
俺が苦労して覚えた魔力操作技術なんて霞んでしまうぐらいに。
「少しの乱れで簡単に弾けてしまうような高密度の魔力を常に制御し続けるために、精神的な負荷も相当なものとなる。それもクレアちゃんが倒れてしまった原因の一つだ」
「そっか」
腕の中にいるクレアに視線を向け、その安らかな寝顔を見詰める。
どうやったのかは分からないが、そんな負担が掛かる技を身につけてまで強くなろうとするこの子に対して罪悪感を抱きながら。
「そして、もう一つ。《精霊宿し》を知っているのなら分かるだろうが、魔閃刃は武器にも極度の負荷を掛けてしまうために、上質な武器でなければ瞬く間に自壊してしまう」
そういえば、あの時も途中で剣が砕け散ってたっけ。
その衝撃で二人とも気を失ってかなり危ない目に遭ったし、その辺りは注意しないとだな。
「今回は発現させていた時間が短かったために無事であったようだが、クレアちゃんが目覚めたら説明しておくといい」
「うん。そうする」
一人で練習しようとして怪我したら大変だもんな。
「では、これで魔閃刃に関してある程度は理解できたことだろう。なので、解説はここまでだ。早く帰ってクレアちゃんをしっかりと休ませてやれ」
「あぁ。今日はその、色々ありがとうな。それじゃあまた」
「うむ。それではな」
別れの挨拶を済ませ。手を振るシャーロットに会釈で返して、店を後にする。
さてと、それじゃあさっさと帰るかな。
帰ったあとも、まだやらないといけないことはいくつか残ってるし、クレアが起きる前に全部終わらせておこう。
頭の中でそう決めると、揺らさないように気をつけて、家への道を歩き始めた。




