封魔領域13
「なに飲ませたんだ?」
「む? あぁ、心配するな。これはただの睡眠薬だ」
シャーロットは空になった薬瓶を振ってみせながらそう答え、優しげな手つきでクレアの髪を撫でる。
「魔力を回復させるには睡眠を取らせるのが一番効率的だからな。それに、起きているとそれだけで苦しい思いをするからこうしてみせたまでだ。なにか不満か」
「いや、別に不満なんて。急に眠ったから気になっただけで、そういうことなら全然問題ないよ。ありがとう」
「礼などいらん。こうなってしまったのは我の見通しが甘かったのが原因だからな」
自身の額に手を当てて軽くため息をつくシャーロット。
それほどまでに先程クレアがやってみせたことは予想外のものだったのだろうか?
「詳しいことは分からないけど、さっきのってそんなに異常なことだったのか? なんとなくすごいってのは見てても分かったけどさ」
「ふっ。異常、か。あぁ、たしかにあれは異常も異常だ。先程言った通り、この試練は本来クレアちゃんに課すには早すぎたものだ」
口の端を歪めて複雑な表情を浮かべつつ、シャーロットはクレアを見詰める。
「《封魔領域》に順応するだけならば、そう時間が掛かるものではないと思っていた。この子の才を持ってすればな」
正直、それだけでも俺からすれば相当すごいことなんだけど、シャーロット的にはクレアならそれぐらいできて当然だということか。
「だがしかし。順応ならいざ知らず、適応したとなると話は別だ。この子は領域での魔力操作に慣れたのではなく、領域そのものを克服したということになるのだからな」
たしかに、先程のクレアの迷いのない魔力操作は、慣れたというよりも明確に自分の意志を持って操っていたように見えた。
それはこの領域による妨害をすでにものともしていないという証左に他ならないだろう。
「その上でこの子はあんなものまで披露してみせた」
「あんなものって、あの魔刃のこと?」
「そうだ」
俺の質問にシャーロットは頷いて答える。
今までに見てきたクレアの魔刃とは明らかに違った魔刃。
シャーロットの反応からしてとんでもないものなんだろうと推察することはできるが、あれはどれほどの異常性を秘めたものなのか。
「クレアちゃんがこれまで発現させていた魔刃。あれは、言ってしまえば魔刃の前段階のようなものだ」
「前段階?」
「うむ。前段階とは、刀身を覆うように魔力を形成し、その切断力を大幅に上昇させるもののことを指す。魔刃武器と言われる、魔力を流すだけで誰にでも魔刃を扱えるようになる武器もこれにあたる」
……は?
「そして、先程クレアちゃんが見せた魔刃がその完成形。本来、魔力操作を極めた者にしかたどり着くことのできない極致。あれこそが、真の魔刃というものだ」