封魔領域10
「ところでさ。クレア大丈夫なのかな? さっきからずっと集中しっぱなしなんだけど」
ずっと気にはなっていたことだ。
でも、あまり心配をしすぎてもそれはそれで鬱陶しいかと思い、そちらに意識を向けすぎないように注意していたのだが、さすがにこれだけ長い時間身じろぎのひとつも見せてくれないとなると不安も募ってくる。
「心配性なやつだな弟子は。瞑想など別段珍しいものでもあるまい」
「いや、そりゃそうだけどさ」
まぁ、俺も訓練を始める前にはゲインさんに教わった呼吸法──瞑想とは似て非なるもの──で気持ちを落ち着けて集中力を高めたりもするが、あれは短い時間で己自身を整えるものであり、これだけ深く埋没するようなものではない。
それに、クレアも普段はここまで己の内側に入り込むようなことはしないため、尚更心配になってしまっているわけだ。
「はぁ。あまり貴様たちの間柄に口出しはしないつもりだがな。そのように杞憂ばかりしていては、またいつぞやのように喧嘩をするはめになるぞ?」
「ぐふっ!」
突然シャーロットの口から飛び出した強烈な一言に、呼吸が乱れてむせてしまう。
……喧嘩というのは、初任務の前の夜にやったあれのことだろうか?
いや、たしかにあの時のあれも俺がクレアのことを対等に見れていなかったことが原因で起きた事件ではあるが、今のこれはそれとはまた別だ。
今回のこれは、ただただクレアの身を案じているだけのことであって、決して子供扱いしているわけではない。なんならミリオに誓ってもいい。
というか、それよりも。なんでこのことをシャーロットが知ってるんだよ。
「ん? あぁ、何故そのことを知っているのか、と言いたげな目だなそれは」
なんで目だけでそれが分かるんだよ? なんか怖いんだけど。
「理由は単純。クレアちゃんから聞いただけのことだ」
ええー?
クレアさん。いくら親友相手であってもそこまで赤裸々に俺たちのことを話さなくてもいいんじゃないかな?
まぁ、そこまで大した不都合はないんだけど、自分の恥部を知られるってのは普通に恥ずかしいぞ。
「ふっ。まだまだ青いな弟子よ。そんなことでは愛想をつかされてしまうやもしれんぞ?」
「……やめて。それ言われると、わりと本気でへこむから」
自分でも色々と至らない部分があるのは分かっているので、なんとか意識を変えていこうとはしているけど、それまでに嫌気を差されたらどうしようってのは常々考えてるからな。
「いや、冗談だからな? こら、男がそんな泣きそうな顔をするものではないぞ。おい、あの、なんだ、その……ごめんなさい」
思わず素に戻って謝罪をするシャーロットに「うん」とだけ返して、天井へと視線を向けた。