封魔領域7
「それともう一つ。むしろタチの悪さで言えばこちらの方が数段上なのだが。いるのだよ、悪意にまみれた心を持つ者というのは、どこにでもな」
その言葉がどういう意味を持つのか少し考えて、シャーロットの言わんとしているところを理解する。
「それは、この《封魔領域》っていう技を悪用するやつがいるっていうことか?」
「あぁ。人の中には他者を貶め、害することにより快楽を得る類いの狂人が存在する。もちろんその絶対数は多いものではないが、確実にそれは存在するのだ」
そう言ってみせたシャーロットの声音にはどこか固さのようなものがあり、その警戒心の高さを窺わせる。
もしかしたらそのことで過去になにかがあったのかもしれないが、無闇やたらに藪をつつくような真似をするのはどうかと思うので、突っ込んで問うことはしないが。
「なので、いずれクレアちゃんにはその対策としてこの試練を与えるつもりではいたのだが、随分と予定が前倒しになったものだ」
そうは言うものの、その顔にはどこか嬉しそうな笑みが浮かんでいて、つい先程までの固さは見受けられず、安心する。
シャーロットにとって、クレアの存在は心の清涼剤のようなものなのだろう。この子に関連することを話している時の彼女は、いつも楽しそうにしている。
まぁ、元々この二人は仲が良かった上に、クレアは飲み込みが早いから技術を教えること自体が楽しいんだろうな。
二人の関係性は、見ているこちらとしても微笑ましいものがあるので、その関係が良好なのはとてもいいことだ。
「あ、というかさ。そもそもの話なんだけど、その《封魔領域》って誰にでも扱えるようなもんじゃないよな? もしそれが先生と同等ぐらいのやつにしか使えないものなんだとしたら、個人に対してはそれほど警戒する必要はないんじゃないか?」
シャーロット並みに魔術に長けているやつなんてそうはいないだろうし。
「いや、誰にでも扱えるものでないのはたしかだが、精度を問わなければそれなりに魔術に精通しているものになら扱うことは可能だ」
「あー、そうなの?」
「うむ。《封魔領域》は言ってしまえば、魔力によって相手の魔術に揺らぎを発生させる領域を作るだけのものだからな。理論さえ分かってしまえばできないはずもないだろう」
だとしたら、外で知り合い以外の魔術師に会った場合はどんなやつであろうと一定以上は警戒しておかないといけないってわけか。
……それはまた、なんというか面倒くさいな。




