封魔領域2
「この場で当たり前のように互いの間に魔力経路を通すとは、存外そのスキルというものは大したものだな」
そんな風に《思念会話》を評価するシャーロットだが、たしかにそれに関しては同感だ。
正直、今俺が自力で魔力を発露しようとしても、この周囲を漂う力に妨害を受けてしまってまともに機能することはないだろう。
ただ、それでもスキルの力ならば、この場であってもそれを無視して効力を発揮するだろうという確信めいたものはあった。
これは以前からクレアに言われていたことではあるが、この《思念会話》という力が俺と他者を繋いでいる経路は一切の揺らぎがなく、およそ無駄というものが感じられないほどにはっきりとした線で構成されている、と。
なら、魔力操作に関してはシャーロットがその才能を認めるほどに優れているクレアがそう評する域にある力であれば、たとえ魔力的な妨害を受けていようと問題なく機能するだろうと思ったわけだ。
「まぁ、俺もそう思うよ。俺自身の魔力操作なんて未熟もいいとこなのに、当たり前のようにこんなことができるんだからな」
本当にこのスキルという力は俺みたいな半端者には過ぎた力だと思う。
だからといって、この力がないとなにを成すこともできない以上、手放す気なんてものはさらさらない。
この力が俺の大切な人たちに害を与えてしまわない限りは、だが。
「ふっ、当然だ。我が魔力で満たされたこの『封魔領域』内で魔力を行使できる者なぞ、それこそ一握りの逸材だけだからな。非凡な者にとっても相当な負荷が生じるこの空間で弟子がそれを扱えるようになるには数十、いや、数百年早い話だろうな」
「……いやそれ、できるようになる前に寿命で死ぬから」
長い年月を生きているシャーロットにこう言うのは残酷なことかもしれないが、それが事実だからな。
「というか、それだけ厳しいのが分かってるのに、なんでまた急にこれだけ無茶な訓練を始めたんだよ。一回魔刃を発動させただけでクレアがここまで消耗するなんて、さすがにやりすぎじゃないのか?」
実際、さっきシャーロット自身が「時期尚早だったか」と漏らしてたぐらいだし、明らかに一、二段階は飛ばした訓練なんじゃないか、これは。
「あぁ、そうだな。いかにクレアちゃんが優れた魔力操作の適性を持っていようとも、こればかりはそう簡単に適応できるものではあるまいよ」
「だったら」
「だが、これが本人の希望だからな」
「え?」
本人の希望。と、そう言われて次に言おうとしていた言葉が止まってしまう。
なにかに集中しているのか、先程から身動き一つ取らず目を閉じているクレアを見てその真意をを探ろうとするが、そこからはなにも読み取ることはできず、断念する。
今まででも十分に自分を追い込むような訓練を重ねていたクレアが、更に厳しい訓練を自分から望む理由とは……。