理由
「あれ、そうなの? なんか用事?」
と、思ってもみない反応が返ってきたことに肩透かしを食ったような気にさせられたが、少し考えてみればシャーロットには店番やら薬の調合やらといった彼女にしかできない用があるのでそれも当然といえば当然か。
でも、ちょっとの時間ぐらいなら抜け出せないこともないんじゃないかとは思う。
いや、素人考えでそんな判断を下すのは間違ってるかもだけど。
「いえ。単純にボクがここから出られない、というだけの話なんですけどね」
「え?」
……ここから出られない、とは?
「以前にボクの身にかけられている呪いのようなものの話をしたと思うんですが、弟子は覚えていますか?」
「あぁ、うん。たしか、肉体の成長が止まってしまう類いの呪いをうけたとかどうとかって言ってたよな」
あれから色々なことがあったから微妙に記憶が曖昧になってるけど、大まかに覚えているかぎりではそんな感じだったはずだ。
「えぇ。細かく言えば一部精神面での成長にも影響はあるんですが、言ったところでどうしようもないので割愛? するとして、おおむねそのような感じですね」
自分の記憶が正しかったことに安堵の息を漏らす。
が、まだ疑問が解消されたわけではないので、それを解消してもらうためにシャーロットの次の言葉に耳を傾ける。
「それでなんですが。その呪いにはもう一つの効果といいますか、負の側面がありまして。それが、この場を中心とした一定空間からの移動を制限されるというものなんですよ。大体この店の周辺がその範囲です」
「……えぇ? なんだそれ。さすがにちょっと厳しすぎないか?」
言ってしまえばそれはこの店からの外出を禁じられているようなものじゃないか。
というかそれでどうやって生活してるんだ? 買い物とかも行けないだろうし、毎日の飯とか生活用品とか色々必要なものを手に入れることもできないんじ
ゃ?
「それでどうやって生活してんの? どう考えても無理じゃない?」
「いえ、そんなことありませんよ。毎日のご飯は届けてくれる人がいますし、必要なものがあればその人に言付けを頼めば調達してきてくれますから」
「あー、たしかにそれなら……。って、いや、それでも外を出歩いたりできないのは辛くない?」
俺自身、親父がいなくなってすぐの頃は半ば引きこもりのような生活を送っていたことはあるけど、それでもコンビニぐらいには出掛けたりしてたし、何年も完全に閉じ籠ったままっていうのはかなり精神的にきつそうな気がする。
「まぁ、たしかにそんな風に感じていた時期もありましたが、さすがにもう慣れましたよ。それに、最近ではクレアちゃんや弟子がほぼ毎日のようにここへ来てくれるので、寂しくもありませんしね」
「……」
それはなんというか、あれだな。
俺はいままで魔術を教えてもらう時か薬を買うためにしかここへ来ていなかったわけだけど、そんな風に思ってもらえていたのなら、よかった、のかな。
迷惑を掛けるのは悪いからと思ってあまり必要のない時には来ないようにしていたけど、今度からは特に用事がなくても、ただ話をするためだけに来てもいいかもな……。