戦姫4
「ありゃ?」
相当な勢いが乗っていたためか、槍と共に流されるようにして体を前に傾かせるアンネローゼ。
そして、そこへ繰り出されるニーアさんの剣撃。
「んにゃっ!」
しかし、アンネローゼは身をよじることでその斬撃を回避すると、同時に槍をしならせるように振り上げ、ニーアさんの真下から斬撃を見舞う。
空気を切り裂くように放たれたそれは、ニーアさんの腹部を抉る勢いで迫っていくが、彼女は槍の切っ先を刀身で受け流すようにして滑らせると、根元の辺りで力任せに剣を振るいアンネローゼごとそれを弾き飛ばした。
「おっとと」
アンネローゼは体勢を崩されながらも空中で後方宙返りを決めることで、どうにか着地することに成功する。
そうして、仕切り直しとばかりに両者の距離が開き、再度ぶつかり合いが始まるかにみえたが、なぜかアンネローゼがその場から動こうとはせずに、じっと槍を見詰めてなにかを考えているようだった。
「なんだ、もう終わりにする気かアンネローゼ。さすがにこの程度ではないだろう? 君の力は」
「ごめんニアちゃん。ちょっと待ってー」
そう言うと、アンネローゼは手元で何度かくるくると槍を回してみせ、「こうかなぁ?」と首を捻らせながら悩んでいるようだったが、少しすると一応ながらも納得したのか、一度頷いて槍を構えてみせた。
「考えごとは終わったか?」
「うん、お待たせー! それじゃあもう一回いくよー!」
「あぁ、こい」
ニーアさんの返事を受け、アンネローゼは先程のように強く一歩を踏み出すと槍の届く距離まで一気に詰め寄り、足の先から腕の先までを連続で稼働させ、超高速の刺突を繰り出す。
それは先程のものより速く、鋭い一撃だ。
並大抵の相手であれば、この一撃は防ぐことも躱すこともできない、必殺必中の刺突であることは疑いようもない最高の一撃だ。
だが、今アンネローゼが相対している者は、それこそこの一帯では最強の一角に数えられるほどの強者であり、剣の扱いのみにおいていえば紛れもなく最高位だと言われている人物だ。
そんな傑物が相手となると、それだけの変化では一切の痛痒を与えることもできないのは確実であり、先程と同じ結果を辿るのは明白だと思われた。
──が、しかし。
「ほっ!」
その突きを逸らそうとニーアさんが剣を接触させた瞬間、アンネローゼは手首を、腕を、肩を、全身を捻ることによって槍に強烈な回転を加えると、槍は急激に加速し、更に刀身を滑るようにして、その切っ先はニーアさんの胸元へ吸い込まれるように飛び込んだ。