戦姫3
鞘からその刀身があらわになった剣は輝いてみえるほどに綺麗な白銀色で、あまりの美しさにまたもや目を奪われてしまいそうになるが、軽く頭を振って気を取り直すと、僅かに緊張しながらもニーアさんに話し掛ける。
「あーいや、でも、もしもってこともありますし」
「ふむ。君は私がアンネローゼ相手に手傷を負わされてしまうと、そう言いたいわけか?」
「……いえ、その。そんなことはないと思うんですけど、万が一にそういうことがあるとまずいかな、と思いまして」
もしかして怒らせてしまったかな、と思い言葉が弱くなってしまうが、それでもなにかがあってからでは手遅れになるので注意を促してみる。
だが、予想外にもニーアさんはその言葉を聞いて微かに口元を緩めてみせた。
「それならそれで構わないさ。いや、むしろそれこそが私の望む一番の結果だからな」
そう言ってみせたニーアさんからは妙な迫力が感じられ、気圧されてそれ以上はなにも言えなくなってしまう。
「そういうわけで、分かったのならもっと下がっているといい。あまり近くに居られると邪魔になるからな」
あまりにもあまりな言いぐさではあるが、たしかになにも言わないやつがここに居ても邪魔にしかならないので、すごすごと引き下がる。
その際にゲインさんが肩に手を置いてくれたことに僅かながら救われ、どうにか壁際まで辿り着いた時には二人は互いに武器を構えて対峙しているところだった。
「さぁ、アンネローゼ。どこからでも掛かってくるといい。今の君の力を存分に私に見せてみろ」
「はーい! じゃあ、いっくよー!」
まるで緊張を感じさせない間の抜けたような返事と共に、一歩を踏み出したアンネローゼは、だが、驚くような速さで距離を詰めると、流れるような動作で手元から滑らせるようにして槍を繰り出した。
こちらから見ている限りでは、その距離から届くのかと疑問を覚えるほどの遠間だったのだが、体の捻りや腕のしなりを加味した結果、その切っ先はきっちりとニーアさんの下へと到達する。
なんていうデタラメに優れた距離感なんだと、その一突きだけでアンネローゼの感覚に感心してしまうが、その鋭い一撃をニーアさんは首を傾けるだけで軽々と躱してみせた。
「ほう。いい突きだな。思っていたよりもずっといい。やるじゃないか、アンネローゼ」
「えへへぇ。じゃあ、次はもっと速くいくねー!」
そう言ったアンネローゼは槍を手早く引き戻すと、即座にもう一撃を放ってみせる。
それは、言葉通り先程のものより一段速度が上の突き込みであり、正直、素の状態の俺なら反応すらもできない程の速さを秘めた一撃だった。
だが、そんな一撃もニーアさんが相手では分が悪いのか、胸元に伸びたそれを、彼女は剣の腹で横に逸らしてしまう。