戦姫2
密着するほどニーアさんに詰め寄ったアンネローゼは、とびきりの笑顔でそう告げた。
すると彼女は顔を綻ばせてみせ、その手をアンネローゼの頭へと伸ばして撫で始めた。
「ふふっ。なんだ、やる気十分じゃないか。あぁ、いいとも。やろうやろう。もとよりこちらはそのつもりでここへ来たんだ。君から誘ってくれるのならば、断る理由はないさ」
「やったー! いぇー!」
ニーアさんの了承を得たアンネローゼは、嬉しさを全身で表すように飛び跳ねながら彼女から距離を取ると、背負っていた槍を手に取り油断なく構えてみせた。……のはいいんだけど。
「なぁ、アンちゃん。真剣でやるつもりなのか?」
「う?」
そう。今アンネローゼが手にしている槍は、どこへ行くときにも必ず携帯しているうちの一本、二メートル程度の長さのものだ。
本人曰く、その日の気分によって持ち歩く槍の種類を変えているらしいのだが、いずれのものもしっかりと磨かれた刃が先端に装着されていて、はっきりいえばそれは実戦で使用するための武器である。
俺たちと模擬戦を行う時もアンネローゼはそれを使ってはいるが、正直それはあの子の強さが圧倒的であり、俺たちとは比べものにならないほどの技量を持っているからこそ成り立っているわけで、アンネローゼからすれば俺たちとのそれは遊びの延長に過ぎないものだという節すら感じられる。
だが、今目の前にいるその剣士は、完成された強さを持つ明らかに格上の強者であり、確実にアンネローゼよりも強い人物だ。
普通であればそんな人が相手なら、真剣を持ち出したところで問題はないだろうが、もしかしたらアンネローゼならば、なにかとんでもないことを仕出かしてしまうんじゃないかという懸念を抱いてしまう。
なぜなら、俺は今までにアンネローゼが全力で戦っているところを見たことがないから。
話を聞く限りではミリオでもまだあの子の本気を目にしたことはないというし、なにかの拍子でそれが引き出されてしまった場合、万が一の事態が起きないとも限らないわけで、それだけが少し心配なところだ。
「ダメなの?」
「駄目っていうか、危ないかなぁってさ」
「えー」
そう言って不満そうな顔をみせるアンネローゼだが、僅かにでも相手に怪我負わせるリスクがあるのならばそれは控えるべきだろう。
まぁ、それを言ったら俺たちとやる時も徹底するべきな気がしないでもないが、それはそれとして。今回は相手が相手だからそのリスクも桁違いというか、なんというか。
「いや、私はそれでも構わないぞ」
そんな風にアンネローゼを説得しようとしていると、どちらでもいいとばかりに自身の剣を引き抜いたニーアさんはそう答えてみせた。