迎え2
「おーい、アンちゃん」
「う? あ~、アー君だぁ。おいっすー」
「おいっす」
ふにゃっとした笑顔を浮かべてこちらを見上げてくるアンネローゼに挨拶を返して傍まで歩み寄っていくと、彼女は手招きをしたあと自分の隣を軽く叩いてみせた。
「アー君もここ座りなよー。あったかくて気持ちいいよー」
「あぁ、たしかにここ陽当たりよくて気持ちいいな。でも、誘ってくれんのはありがたいんだけど、残念ながら今ゆっくりしてる時間ないんだよな」
「えぇ~。うーん、じゃあまた今度一緒にだねー」
「おう、そうだな。ってことで、そろそろ行きましょうか」
アンネローゼに手を差し出して脈絡もなくそう言うと、彼女は頭の上に疑問符を浮かべたような表情で首を傾げていたが、直後に目を輝かせるとこちらの手を取り勢いよく立ち上がった。
「なになに、お出かけ!? お出かけ行くの!?」
「うおっ!?」
なにを勘違いしたのか、アンネローゼは俺の手を握った状態で何度も飛び跳ねて嬉しそうにはしゃいでみせる。
その唐突な変化に色々とついていくことができずに、あやうく引き倒されそうになるが、すんでのところで踏み留まりなんとか転倒を免れる。
「ちょ、待った待った! 一旦落ち着こう。誰もお出かけするなんて言ってないから!」
「ふぇ?」
と、その言葉を聞いた瞬間、アンネローゼはそれまでのハイテンションが嘘のように突然動きを止め、呆けた表情でこちらを見上げてきた。
その目はまるで餌を前にして待ったを掛けられた犬のようにしょぼくれたもので、なんだか自分が悪いことをしたようで少し申し訳ない気持ちになってしまう。
「あぁ、いや、あれだ。お出掛けはまた今度みんなで一緒に行こう。な?」
「……うん」
アンネローゼは普段が元気で溢れている分、こうして目の前で落ち込まれると妙に罪悪感を覚えてしまう。
でも、今は本当に急いでいるので、そんな気持ちを押し殺してでも無理やり平常心を保つと、頭の中を整理してからもう一度彼女に声を掛ける。
「それよりも、今冒険者ギルドにアンちゃんのことを待ってる人がいるからさ、一緒に会いに行こうぜ」
「う? アンのこと待ってるの?」
「うん。事前にゲインさんから聞いてるはずなんだけど、剣の戦姫って人がアンちゃんに会うためにここに来てくれたんだって」
そう言うと、アンネローゼは「剣の?」という、まるで今初めて聞いたかのような反応を返してくるが、あまり興味が湧かないことはすぐに忘れてしまうこの子にしては珍しくもない反応なのでそれについては特に責めるようなことはせずに、そこに追加で興味を引けそうな言葉を掛けてみせる。
「ちなみになんだけど。その人、めちゃくちゃ強かったよ。さっき相手してもらったんだけど、手も足もでなかった」
それを聞いた直後、アンネローゼは口元を三日月状に歪めて目を爛々と光らせた。
そして、俺の手を放すと、「アー君、行こ!」と言ってその場から一気に全速力で走り出して、そのまま下を確認もせずに屋根の上から飛び降りた。
「おーい! 危ないからちゃんと下見て降りろよー!」
遠ざかっていくアンネローゼの背中に大きな声でそう言ってやると、「はーい!」という元気だけはいい声が返ってきた。
それに対してアンネローゼらしいなという感想を抱きつつも、彼女に置いていかれないようにその場から安全に飛び降りると、その背を追い掛け始めた。