迎え
「そういうことだ。我々が求めているのは自分たちと同等かそれ以上の存在、技の極致へと至ることのできる者のみだ。その他有象無象にも使い道がないとは言わないが、少なくともそれは私には関係のないものだからな」
こちらを一瞥することもなく切り捨てるように言って、ニーアさんはつまらなさそうに腕組みをしてみせた。
「そんなことよりもあの子はまだ来ないのか? こちらへ来てからもうそれなりの時間が経過していると思うんだが」
「そうですね。念を押して時間を伝えてはいたのですが、彼女はその辺りが少し自由すぎる嫌いがあるので」
「ふぅ。まったく、それでは困るんだがな。誰か手すきの者を迎えにやることはできないのか?」
「いえ。すでに一度彼女の自宅へと職員を向かわせたのですが、その時点で彼女は家には居らずどこかへ行ってしまったようでして」
ゲインさんの言葉にため息で返して、ニーアさんは頭を押さえて目を閉じる。
話の内容的に、ニーアさんが待っているあの子というのはたぶんアンネローゼのことだろうな。
さっき一度名前を出してたし、冒険者の中でも時間にルーズで自由なところがある人物といえばあの子ぐらいだし。
となると、放っておいたらここへ来るのがいつになるか分からないし、俺が迎えに行った方がいい場面かな、ここは。
いくつかあの子の居る場所に心当たりはあるし、よく分からないけど知らないうちにニーアさんの期待を裏切っちゃってたみたいだから、下がった株を少しでも上げるいい機会かもしれない。……目上の人からの印象が悪くなって得をすることなんてなにもないからな。うん。
「あの。アンネローゼのことを言っているのなら、自分が見つけて連れてきましょうか?」
「ん? あぁ、そういえば君はあの子の仲間という話だったな。どこか居場所に心当たりが?」
「あ、はい。絶対そこに居るとは言い切れないんですけど、たぶん」
「ふむ。そうか、ならば頼めるか?」
先程ぶりにこちらへと視線を向け、俺の提案を受け入れてくれたニーアさんに「はい」という返事と共に頷いてみせる。
「それじゃあ行ってきます」
「すみませんアスマ君。お願いします」
「うっす。すぐ戻ってくるんで」
それだけを言い残して訓練所を後にし、外へ出るとアンネローゼを探すためにスキルで能力を向上させて一気に駆け出す。
周囲の人たちがなにごとかとこちらに視線を向けてくるが、それに構っている暇はないので無視して全速力でその場から離れると、アンネローゼのお気に入りスポットを近い順に巡っていく。
すると、探し始めて三箇所目の場所、訓練場の裏手にある倉庫の屋根上で目を細めて気持ち良さそうに日光浴をしている彼女の姿を見つけることができた。所要時間は僅かに数分といったところだから頑張ったほうだろう。
正直、邪魔をするのが躊躇われるぐらいにリラックスしているので非常に声を掛けづらい状況だが、さすがに人を待たせている以上余計な時間を掛けてはいられないので少し罪悪感を覚えつつも、わざと大きめな足音を立てながら近づいていき声を掛ける。