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鎧の人5

「お、らっ!!」


 全力の跳躍から体の捻りを加えた渾身の一撃を上段から叩きつけるが、無造作に掲げられた剣によって当然のように受け止められる。

 ならばと、刃を滑らせて切り返しの横凪ぎを放っても結果は変わらず、連続で緩急をつけた短い跳躍を繰り返すことでタイミングを外した剣撃を繰り出してみても、そのすべてがまるで最初から読まれていたかのように的確に処理されしまう。

 そして、最後の賭けとばかりに地面を強く蹴り上げて垂直に飛び上がると、天井を足場にして彼女へと飛び掛かり脳天目掛け全力で剣を突き込むが、あろうことか彼女は刀身を素手で掴み取ると、大きく腕を振るい俺を投げ飛ばした。


「うおっ!?」


 凄まじい力で投げられたことにより瞬間的に意識が空白に飲み込まれるが、視界を埋め尽くすように迫る壁を捉えた直後、本能的に体が反応しなんとか体勢を整えることができたが、それでも勢いよく壁に着地した影響で足から全身にかなりの衝撃が走った。


「ふむ。まぁ、こんなところか。よし、この辺りで終わりにするとしようか。君の実力はもう十分に分かった。付き合ってくれてありがとう」

「あ、はい。ありがとうございました」


 壁に手をついて足の痺れが取れるのを待っていると、ニーアさんからそう声を掛けられたのでこちらからも礼をして、木剣を元の場所へと返しにいく。


「お疲れ様です。どうでしたか、彼は」

「うーん。そうだな。なんというか、予想以上だったな」


 すると、俺たちの模擬戦を見守っていたゲインさんが俺の評価をニーアさんへと訊ねていたのでそれとなく聞き耳を立てていれば、ろくなところを見せられなかったわりには予想以上という思いがけない言葉が聞こえてきたので、疑問を覚えつつも更に二人の会話に聞き入ってしまう。


「予想以上に優れていた、と?」

「ん? いや、その逆だ。私が思っていた以上に、彼の力は大したことがなかったよ。貴方やギルドマスターが目を掛けている人物がどの程度のものなのかと思ってみれば、期待外れもいいところだったな」


 ……あー、予想以上に弱かったって意味か。

 いやまぁ、そりゃそうだよな。こっちが全身を出したにも関わらずあっちは一歩たりとも動きすらしなかったんだから。

 事前にゲインさんとグランツさんが彼女に俺のことをどう話していたのかは知らないが、どうやら俺は彼女の期待にはまるで答えられなかったようだ。


「なにもかもが中途半端なうえに、戦闘中一度たりとも閃きを見せることすらしなかった。あれではよくても中級止まりが関の山だろう。それじゃあ駄目だ。使い物にならないよ」


 肩を竦めるような仕草をした彼女は、そう俺の戦闘能力を評価してみせた。


「ですが、短期間であれだけの戦闘能力を身につけた彼の成長力には目を見張るものがあります。それに彼は未だに発展途上の身。ここから先、彼が更なる成長をみせそこに今以上の特異性が加われば」

「それでもだよ」


 ゲインさんの言葉を遮るように、ニーアさんが先程より温度の下がった声で言葉を被せる。


「あれではどう足掻いたところで、真に才ある者には届きはしないよ。決してな。それに成長力の話をしていたが、それは我々戦姫を上回るものか?」


 その言葉を聞いた瞬間、背筋に言いようのない寒気が走る。

 それが俺に向けられたものでないことが分かっていても尚、そこに込められた力に触れたことによって精神が掻き乱されてしまう。

 ……というか、戦姫って。


「……そうですね。たしかに、貴女方と比べてしまえばそれも霞んでしまうものでしかないでしょう。特に、王国最高戦力の一つとして数えられている、貴女──剣の戦姫にとっては」


 ……剣の、戦姫。

 あれが、そうなのか。あれが、剣の頂点。王国一の剣士。

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