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鎧の人4

「ふむ。どちらにするか……。んー、こっちだな」


 ただ、上機嫌で準備を進めている彼女を止めることもできず、完全に模擬戦を始めるような流れになってしまった。

 まぁ、別にいいんだけどな。色んな人と戦うことは俺にとっても悪いことじゃないわけだし、それに貴族相手に口答えなんてした日にはどんな目に遭うか分かったもんじゃない。……いや、なんとなく横暴なイメージを持っているだけで実際には断ってもなにも言われないって可能性もあるんだけどさ。


「なぁ、君。君はなんの武器を使うんだ?」

「っと、どうするかな。槍……いや、俺も剣にしとこうかな」

「そうか。よし。それじゃあ、こちらを君に渡しておこう」

「あ、どうも。ありがとうございます」


 礼をして彼女から木剣を受け取ると、彼女は「なに、構わないさ」と言って訓練所の中央へ向かったのでその後に続き、丁度互いの剣が届かない位置まで移動する。


「では、やろうか。どこからでも打ち込んできてくれていいぞ」

「……えっと」


 彼女が実力者だということはなんとなくで雰囲気で把握しているのだが、正確にそれを理解しているわけではないので全力を出していくべきなのか、それとも配慮をすべきなのか、そのどちらかを確かめるためにゲインさんへ視線を送る。

 すると、彼は一つ頷いて「手を抜く必要はありませんよ」と言ってくれたので、こちらも頷いて返し、深く息をつくと能力向上系スキルを一気に解放し、魔術による強化も同時に行う。


「うん。彼の言う通り、私に対して手加減などまったくの不要だ。君の全力を以て掛かってくるといい」

「はい。分かりました。それじゃあ、行きますよ」

「あぁ、どうぞ」


 一切の気負いも感じさせない自然な立ち姿の彼女を視界の中央に捉え、僅かに膝を曲げて腰を落とすと、剣を後ろに引き地面に触れる寸前で止める。そして──


『アクティブスキル《力の収束》発動』


 短く鋭い息を吐くと同時にスキルを発動させ、彼女の剣を持っているのはとは逆の位置へと全力の跳躍を決める。


「おぉぉらっ!」


 瞬時に彼女との距離をゼロにすると、逆袈裟からの一撃を彼女の胴体へと叩き込む。

 だが、その一撃は彼女に容易く受け止められてしまい、訓練所内に乾いた木の衝突音が響き渡る。


「ん?」


 初撃を受け止められることは想定内のことなのでそれは気にも止めずに、そこから横凪ぎ、上段斬りへと繋げて連続で剣撃を繰り出していくが、それが受けられる度妙な手応えに違和感を覚える。

 なんだ? 剣を打った時腕に返ってくる衝撃がやけに弱いような気がするが、これは流されてるのか?

 そうして打ち込む時に彼女の剣捌きを意識してみると、予想通り剣が衝突する瞬間に受ける剣の角度や腕の向きなどを変えることによって、彼女がこちらの剣撃を最小限の力で受け流していることが分かった。

 しかし、不規則に打ち込むすべての攻撃に対してこれだけ完璧な対応をみせる彼女の技量に唖然とさせられる。

 こちらは一切手を抜いてなどいないうえ、先程から《力の収束》によって一撃一撃の威力を大幅に上昇させて打ち込んでいるにもかかわらず、彼女はまるで意にも介していないように平然と受け止め続けている。

 正直、普通に受け止めていれば木剣が砕けてもおかしくはないので、ただ受け止めているというだけでも驚愕に値する剣捌きなのだが、それ以上に驚くべきは、未だに彼女がその場から一歩も動いていないという点だ。

 体重移動のために左右に体を振ったりはしているものの、先程から移動を一切行わずにこちらの全力をすべて捌いてみせている。

 その技量は明らかに異常だ。

 今までにも自分より技量が上の相手と戦った時には、いいようにあしらわれてしまうことが何度もあったが、これほどまでに歯が立たないというのは初めての経験かもしれない。

 ……なんだこの人? 一体なにものなんだ?

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