鎧の人3
「まぁそれはそれとしてだ。名乗るのが遅れたが、私の名はニーア。ニーア・シュバルツァーだ。よろしく、少年」
「え? あー、どうも。アスマです。……よろしくお願いします」
先程のソニアリスさんと同様、こちらに手を差し出してきた彼女・ニーアさんと握手を交わしてお互いに自己紹介を済ます。
……もう少年って言われるような歳ではないんだけど、まぁそれはいい。
それよりも気になるのは、今ニーアさんが二つの名を名乗ったことだ。
こっちでは基本的に一般の人が姓を名乗ることはない。なぜなら姓を持っているのは貴族の人たちだけだからだ。
ということはつまり、この姓名のどちらも持ち合わせているニーアさんはほぼ間違いなく貴族様なわけであり、一般人の俺が気安く言葉を交わしてもいい相手ではないということで……。俺、やばい?
「ところでゲイン殿。彼は、本当にアンネローゼの仲間なのだろうか?」
内心で俺が焦っていると、ニーアさんは視線をゲインさんへと移してそんなことを言い出した。
……今アンネローゼって言った?
「えぇ。間違いありませんが、なにか疑問でも?」
「うん。先程ソニアに投げつけられていた時にも感じたんだが、もしかして彼は戦闘において素人なのでは?」
首を捻りながら顎に手を当てて、ニーアさんは俺のことをそう評価する。
まぁ、正直素人と言われても間違いではないか。本当に駆け出しのやつを除けば、周りにいる冒険者の中じゃ確実に戦闘経験が一番少ないし、鍛練もまるで足りてないからな。
「そうですね。たしかに彼が技を磨き始めたのはここ一年程度のことなので、そう捉えられても仕方のないことでしょう。しかし、彼の持ち味は他が持ち得ないその特異性にありますから」
「あぁ、なるほど。彼がそうなのか」
「はい。そうなんです」
なんとなく俺のスキルのことを言っているのは分かるが、なんでこの人がそれを知っているんだ?
いや、ゲインさんかグランツさんが教えたんだろうが、なんの意図があって教えたんだ? うーん。
「そうかそうか。君が」
そう言うと、ニーアさんは楽しそうな笑みを浮かべて先程のようにこちらへと視線を寄越してきた。
だが、先程とは違いその瞳には妙な光が見え隠れしていて、なぜだかそれが無性に気味悪く感じられ、背筋に寒気が走った。
「よし。それじゃあ早速その力を確かめさせて欲しいんだが、いいだろうか?」
「え? あ、え?」
「ゲイン殿。模擬剣を借りるぞ」
「えぇ、どうぞ」
はい? なんでそうなるの? ていうか、俺まだ了解してないんだけど……。