鎧の人2
「よし、それでは次は私の番だな」
目の前の人物に対して僅かな不信感を抱いていると、それまで沈黙を保っていたもう一人の鎧の人物がこちらへとやってくる。
……こっちの人も女なのか。いやまぁ、どうでもいいんだけど。
そんなことよりも、歩くたびにその腰元で揺れている立派な鞘に納めた長剣に目を奪われる。
ただ、あまりジロジロと見ているのも失礼かと思って顔に視線を向けてみても、その兜には視界を確保するための横長な隙間しかないので、どこを見ているのかが分からずなんとなく顔を合わせづらくなり視線を逸らしてしまう。
「こら、なぜ目を逸らす。ちゃんとこっちを見ないか」
「えっ? あーいや、なんか兜越しだから目線が気になって、その」
「ん? なんだ、そんなことか。だったら」
そう言って、彼女は兜の留め具に手を掛けそれを外すと、兜の両側に手をやりそれを持ち上げた。
「よいしょ。これなら大丈夫だろう」
窮屈な兜の中から出てきたのは、想像していたよりも遥かに可愛らしい容姿の女性だった。
黄金のように輝く錦糸のように柔らかそうな髪。薄く青みがかった瞳に、ツンと上に向いた鼻筋。そして、桜色の小さな唇。そのすべてのバランスが素晴らしく整っていて、まるで人形のように綺麗だ。
「どうした、そんなにジロジロと。なにか私の顔についているか?」
「っ!?」
その言葉にはっとして、顔ごと視線を逸らすと同時に一歩後ろへと体を退く。
彼女の容姿があまりにも美人のそれだったので思わず見とれてしまったが、それを指摘されたことが恥ずかしくなり顔が熱くなってきた。
「おっと」
「うおっ!?」
だが、彼女はいつのまにこちらへ肉薄したのか、身を退いた俺の顔を左右から手で挟み込むと無理やり正面へ向き直らせてくる。
そして、俺よりも少し背の低い彼女はこちらの瞳を興味深そうに覗き込み、髪をぽんぽんと軽く叩いてくる。
「え、な、なに?」
「ふむふむ。ふーん。黒い目と髪とはまた珍しいな。勇者様と同じ色だなんて羨ましい限りだ」
そんなことを言いながらも、彼女はぺたぺたと髪を触り続け瞳を覗き込み続ける。
それを振りほどいて逃げようとしても、異様に力が強くてまるで抜け出せそうにないので、なるべく相手を意識しないように観念して大人しく観察されることにした。
「はぁ、堪能した。ありがとう。もういいぞ」
「……あ、はい。それは、よかったっすね」
「うん!」
半分ぐらい意識を殺している状態でそう言うと、彼女は気持ちのいい笑顔で頷いた。