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一時帰宅

「ごちそうさま、っと」


 朝飯を食べ終わり手を合わせると、流し──といっていいのか分からないが洗い物をする場所──へ食器を持っていき、丁寧に汚れを洗い落として布で水滴を拭い去る。

 そして、自室へ戻ると防具だけを身につけて部屋を後にする。


「よし。んじゃ行くか」

「あ、もう行くのアスマ」


 入り口の扉に手を掛けたところで後ろから声が掛かったので、振り返るとこちらへ向け手を上げているミリオがいた。


「おう。っていうか、ミリオ家に居たんだな。まったく物音がしないから誰も居ないもんだとばっかり思ってた」

「ははっ、ごめんね。驚かせちゃったかな?」


 そう言って爽やかに微笑んでみせたミリオの姿はいつも通り絵になるもので、男として羨ましく感じる気持ちとあまりの清涼感に思わず目がくらんでしまいそうになるが、一度頭を振ってその気持ちを振り払うと同時にミリオの言葉を否定する。


「いや、別に大丈夫だよ。それより部屋でなにやってたんだ?」

「あぁ、矢を作ってたんだよ」

「あー、そういえばあれ自作だったっけ」

「うん。売り物のやつでも扱えないことはないんだけど、鏃や羽の微妙な調整とかは自分でやらないと少しだけど狙いが外れたりするからね」


 ほー、さすがにその辺りはこだわってるんだな。でもまぁ、当然っちゃ当然か。

 弓を使う人にとっては精密な射撃こそが一番の武器なわけで、その狙いがほんの僅かとはいえズレたりするのは我慢ならないってことだろうな。

 実際、以前ブラッドウルフと戦った時にはその一撃に助けられているわけで、本人にとっても仲間にとっても正確無比な射撃を支えている道具が最適なものであることはいいことだと思う。


「すごいなミリオ。俺なんて今日も散々だったのに」

「ん、それってあの長剣の研磨作業のこと?」

「うん。もう何度かやってるけど、未だにアンドレイからはそうじゃねぇって怒られてばっかりだよ」


 それでも根気よく付き合ってくれてるあいつは本当にいいやつなんだなと改めて思ったけど。


「あははっ。まぁ、技術が必要な作業ってそう簡単に身につくものじゃないし、多少時間が掛かってもしっかりと覚えていけばいいんじゃないかな」

「あぁ、俺もそう思うよ。焦っていい加減に覚えたらそれこそ教えてくれてるアンドレイに失礼だし、自分の武器の手入れぐらいは人並みにこなせるようにはなっておかないとだしな」

「そうだね。アスマがその技術を習得すればクレアも自分で武器の手入れができるようになるかもしれないし、手は抜けないよね」


 それもある。

 《成長因子》の影響力がどの範囲まで有効なのかは未だに分かっていないが、戦闘技術に影響が出ている以上は他の技能にもその効果が発揮される可能性は高いわけで、クレアのためにも下手な技術を身につけるわけにはいかない。

 それもまた俺の役割の一つだからな。


「だな。で、そのクレアはもう先生のところに行ったのか?」

「うん、アスマが帰ってきたほんの少し前にね」

「そっか。昨日の今日でやる気満々だな」


 昨日役割の話をした後にシャーロットのところに行ってなにやら約束を取りつけてきたらしいけど、今までよりも魔力操作技術を伸ばすことに重きを置く方向でいくことにしたってことかな?

 それはいいんだけど。シャーロットもこの時間は暇じゃないはずなんだけど、その辺は大丈夫なのか? 大丈夫だからオッケーを出したんだろうけど。


「やる気でいったらアスマも相当なものだと思うけどね。今日もこれからゲインさんのところで訓練なんでしょ?」

「おう。まぁ、課題が山積みだからな。今は少しでもいろんな経験を積んでおきたいんだよ」

「たしかにアスマは人よりも色々と経験が少ないからね。うん、いいと思うよ」

「おお、ミリオから太鼓判をもらえたなら間違いないな」


 俺の中でミリオに対する信頼度はかなり高いからな。

 そんなミリオがこう言っているのなら俺の考えも捨てたもんじゃなかったってことだ。


「そんな手放しで信用されても少し困るんだけど……まぁいいか」

「ははっ。っと、んじゃそろそろ行ってこようかな」

「あぁ、ごめんね。出ようとしてたのに話し込んじゃって」


 そう言って、申し訳なさそうな表情を浮かべるミリオだが、一切謝る必要はないので手を左右に振ってそれを否定する。


「いや、いいよ。ミリオと話してると色々発見できて楽しいしさ」

「うん。そう言ってもらえるなら僕も嬉しいよ」

「ん。じゃ、行ってくるな」

「あぁ、行ってらっしゃい」


 お互いに軽く手を上げて挨拶を交わすと、家を出て振り返ることなくギルドへと向かうことにした。

 さて、それじゃあ今日も頑張っていくとするか。

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