研磨2
「……ふぅっ。やっぱりきついなこの作業。もう腕が疲れてきた」
研磨の手を止め、強張った腕や指の筋肉を解すように揉みながらアンドレイに話し掛けると、彼は鼻を鳴らして「だろうよ」と言って剣を持ち上げてみせ、刀身に光を当てて様々な角度からそれを検分し始めた。
「無駄な力を使ってっから掛かってる負担もそれだけ大きいってこった。……まだまだ粗いな。が、今日のとこはこんなもんだろ」
「あー、もう時間か。作業に集中してると時間が過ぎんの早いな」
「まぁな。だが、こういう時間も案外悪いもんじゃねぇだろ?」
「うん。自分の手でこうやって武器の手入れしたりするのも結構面白いな。まだまだ下手くそだけどさ」
そう言ってお互いに笑顔を浮かべつつ、片付けを始める。
作業が終わったというわけではないが、アンドレイにも自分の仕事がある以上あまり多く時間を取ってもらうわけにはいかず、その時間がきたので今日の作業はこれで終了だ。
一人でもこの作業ができるのであれば空いた時間中ずっと作業を続けられるのだが、さすがに素人が誰の助けもなく良いものを仕上げられるわけがないので、こうしてアンドレイの手を借りて作業をしているのだ。
「悪いな、毎度こんな朝早くから押し掛けて。作業のやり方とか教えてくれてほんと助かってるよ」
「へっ、礼なんていらねぇよ。あんたは一応お得意様だし、ウチに魔石を卸してくれたっつー借りもあるからな」
「いや、あれはちゃんとその分の金を貰ってるし、それこそ借りとかそんなもの覚えてもらうことなんてないんだけど」
「あんたがそう思ってなくてもこっちにはあるんだよ。魔石なんて一度商人の手に渡っちまったらどんだけ吹っ掛けられるか分かったもんじゃねぇからな。師匠も安く手に入れられてかなり喜んでたぜ」
あー、よくあるよなそういうのって。
中古ショップの買取情報とか見た時とその商品を買う時とじゃ値段が倍ぐらい違うもんな。
「へー、そりゃよかった」
「おう。まあよ、そんでも悪いと思ってんなら次にまた装備を整える時はウチを贔屓にしてくれりゃそれでいいやな。あとは、早いとこ研磨の腕を上げてくれ」
「ははっ、了解。あー、ちなみにアンドレイはちゃんと武器の研磨ができるようになるまでどれぐらいかかった?」
「そうだな。品物を任せてもらうまでには一年ぐらい掛かったが、ある程度できるようになるまでにはそんなに時間はかからなかったぜ」
なるほど。
まぁ、鍛冶を専門にしているアンドレイだからこそ短期間である程度まで技術を習得できたのであって、俺がとりあえずの技術を身につけるまでには早くても数ヶ月はかかるかもしれないかな。
それまでにこいつの研磨は終わるとして、そこからも自分なりに技術を磨き続ければミリオが目標としている旅に同行する時までにはなんとか自分の武器の整備ぐらいはできるようになってるだろう。……たぶん。
「そっか。まぁ、なるべく頑張ってはみるよ。ってことで片付けと油塗りも終わったし、俺はさっさと退散するとしようかな」
「おう。そんじゃあ、またな」
「あぁ、また明後日に」
そうしてアンドレイに別れを告げると、「さて、やるかぁ」と言って肩を回している彼の姿を尻目に、店を後にした。