落ち込み3
そんなクレアをただ見ているだけなんてことはできず、その小さな頭に手を乗せると、その間違いを正すように声を掛ける。
「それは違うぞ、クレア」
潤んだ瞳でこちらを見上げてくるクレアに優しく微笑み掛け、しっかりとそれを伝えられるようにゆっくりとした口調で続ける。
「人にはそれぞれ役割ってやつがあるんだ。さっきクレアが言ってたみたいに、リリアやユーリなら魔術での攻撃や支援をする役割が。オリオンなら敵の動きを食い止めて味方の被害を抑えたりする盾の役割が。カイルなら自分の働きで仲間を鼓舞したり、臨機応変に立ち回る剣の役割がある」
頭の中にそれぞれが活躍している場面を思い描き、真っ直ぐに視線を交わしてその一つ一つを伝えていく。
「それと同じように、クレアにもクレアだけの役割があるんだよ」
『……私だけの?』
「うん。相手の行動を予測してそれに応じた作戦を立てる役割はこの中じゃクレアにしかできないことだし、大抵どんなものでも斬り裂くことのできる魔刃で物音を立てずに色々とこなす役割もクレアにしかできないことだし、戦闘以外の部分でもクレアにしかできないことなんていっぱいあるんだよ」
自分を過小評価する傾向のあるクレアに、自分が他と比べてもどれだけできることがたくさんあるのかを教えていく。
「それに、傍にいるだけで俺を幸せな気持ちにさせてくれるのもクレアだけなんだぞ?」
少しおどけるようにそんなセリフを口にすると、先程まで暗い表情を浮かべていたクレアもその顔を綻ばせて笑い声を漏らしていた。
それに僅かな手応えを感じてこちらも嬉しくなってくるが、まだ話は終わっていないので失言をしないように気は緩めないようにして、再度口を開く。
「そんな感じでみんなに役割があるように俺にも俺の役割がある。その役割はスキルを使った短期決戦だ。ミリオやガルム、アンちゃんと比べたら俺もまだまだ全然だけど、それでも短時間だけなら、単純な力だけならそれを上回ることができる」
あの状態でみんなと戦ったことはないけど、模擬戦をした時の感覚的に間違いなくそれを大きく上回っていたと思う。
「だから、この前の獣みたいにみんながどうしようもない相手が現れた時に、なにをしてでもなんとかするのが俺の役割ってわけで、それに対してクレアが負い目を感じる必要なんてまったくないし、足を引っ張られたと思ったことなんて今まで一度もないよ」
それどころか、この子には何度助けられたか分からないぐらい助けられているしな。
「まぁ、そういう風にそれぞれの役割を持ったやつらが集まったのがパーティーってやつなわけで、俺と比べて自分がどうこうってよりも、クレアは自分だけの強みを伸ばしていけばいいんじゃないかと思うぞ。焦らずにゆっくりとな」
……まぁ、こんなこと俺が言えたことじゃないかもしれないけどな。
それでも、この子にはこれ以上の無理はして欲しくないから、そのためなら自分のやっていること、考えていることといくら矛盾していようがそんなのは一切関係ないんだ。
『……自分だけにできること……自分の強みを伸ばす』
「あぁ。それが結果的に強くなるための一番の近道だと俺は思う」
『……そっか……そうだね……うん……ありがとうアスマ君』
「いいよ。さて、それじゃあ休憩は終わりにしてもう一回やるか」
『……うん』
落ち込んでいた理由のすべてを解決できたというわけではないと思うが、それでも先程までに比べると遥かに元気になったクレアと一緒に、再度模擬戦を再開することにした。