落ち込み
『……やぁぁあっ!』
「おぉぉらっ!」
閃くように高速で繰り出された二連袈裟斬りに合わせるようにして逆袈裟斬りを放つ。
すると、激しくぶつかり合った木剣同士が甲高い音を立てて弾け、力負けしたクレアの体が後ろに流れる。
そこへ追撃の一手を加えようとして、しかし、顔を守るように腕を立ててみせると、反動を利用して繰り出したクレアの蹴撃が襲い掛かり重い衝撃が走る。
そして、更にクレアはその腕を蹴りつけることで俺と距離を取ると、再度、先程よりも低い姿勢でこちらへと向かってくる。
『……っ!』
その際中、クレアは短剣の切っ先で地面を引っ掻くようにして掬い上げた礫をこちらへと放ってきた。
目を潰されてはかなわないと半身になりそれを回避するが、その僅かな間を突いたクレアが速度を上げてこちらへと迫り、地面から飛び跳ねるようにして短剣を突き出してくる。
『……やっ!』
「ふっ!」
だが、俺は手にした木剣を投げ捨てると、鋭く突き込まれた致命の一撃がこちらへと届く前に手首を掴み取りすんでのところでそれを停止させ、反対側から繰り出された一撃も同様に手首を掴んで受け止める。
そして、跳ね上げようとしている足へ自分のそれを絡ませると、そのままクレアの体を真後ろへと押し倒した。
『……きゃっ』
可愛らしい悲鳴を上げて倒れたクレアに覆い被さるようにしてその姿を見下ろし、衝撃で目を閉じているクレアの額を拳で軽く小突き、目を開いたところで笑顔を浮かべて宣言する。
「俺の勝ちだな」
すると、クレアは僅かに表情を歪ませ悲しそうに眉を下げると、悔しそうな唸りを上げていた。
『……うー……また負けた』
立ち上がり、そんなクレアに手を差し出して体を起こしてやり土埃を払ってやると、『ありがとう』と感謝を述べてはきたものの、その顔には落ち込んだ色がみえる。
ここ数日で何度も行ってきたクレアとの模擬戦だが、負ける度にクレアはなぜかこのような表情を浮かべて悔しがってみせるようになった。
もともとクレアに負けず嫌いなところがあるのは分かっているのだが、それにしても反応が過剰というかなんというか。
一度理由を聞いてはみたのだが、その時は『なんでもない』と返されてしまったのでそれ以上追及はしなかったが、さすがにそろそろ気になる心が限界を迎えてきたし、心配なのでしつこくてももう少し深く聞いてみるべきだろう。
あまりしつこくしすぎたら嫌われそうで怖いけど、いつまでもこのままというのも気持ちのいいものじゃないしな。
「……あー、クレアさん」
『……なに?』
「その、最近俺との模擬戦が終わったあと、いつもなんか浮かない顔してるけどなんかあったのかなーって」
『……ううん……別になんでもないよ』
どうみてもなんでもないって顔じゃないから聞いてるんだけど、こういう場合どう言ったらいいんだろう。難しいな。




