解散・勧誘
『アクティブスキル《力の収束》発動』
地面を爆発させる勢いで蹴りつけ、ザックの真横へと瞬時に跳躍する。
「!?」
「ふっ!」
高速移動にザックは即座に反応することができず、一拍遅れてこちらの存在に気づくがその時にはすでに状況は手遅れとなっていて、繰り出した俺の拳がザックの腹部に深く突き刺さる。
「ごはっ!!」
その勢いをそのままに腕を振ると、浮き上がったその体は数メートル程吹き飛んだ後に地面へと落下し、ザックは体をくの字に折り曲げると腹を押さえて呻き始めた。
周囲の人たちもここ数日で見慣れた光景だからか、特に気にした様子もなくこちらを一瞥だけすると自分たちの訓練を再開しだした。
「ぐおぉっ……」
「終いだな。おい、いつまで寝てんだ、さっさと起きろ。こっちだって暇じゃないんだ、さっさとやることやれよ」
「くっそ……」
倒れているザックを見下ろしてそう言うと、ザックはこちらを睨みつけ悪態をつきながらものそのそと起き上がりクレアの下まで歩み寄っていく。
そして、地面に両の膝と手、それに頭をつけると大きな声で「あの時はすいませんでした!」と発した。
『……あ……うん……もういいから……その……頭を上げて』
それを受けたクレアはいつものように困ったような表情を浮かべると、両手を忙しなく動かして申し訳なさそうにしている。
「容赦ねぇな兄ちゃん。手加減なしかよ」
その光景を眺めていると、いつの間にかこちらへやって来ていたカイルが苦笑いをしながらそんな風に話し掛けてきた。
「当たり前だろそんなの。俺あいつ嫌いだし、長引かせる意味もないしな」
「お、おぉ。……兄ちゃんにここまで嫌われるなんて、ある意味すげぇなあいつ」
別にすごくなんてないだろ。俺を怒らせるのなんて誰にでも簡単にできることだし。
「っと、そういえば今日はザックのやつ一人なんだな。あいつ大抵の時は仲間と一緒に行動してんのに」
「あー、なんかあいつのパーティー解散したらしいからそれでじゃないか」
「うぇ、まじで?」
カイルが俺の話を聞いてぎょっとしているが、そんなに驚くようなことでもないと思うんだけどな。
「あぁ。二、三日前だったか、街の外周を走ってた時にたまたまあいつの仲間たちと会って話したんだけど、なんか最近あいつがめちゃくちゃなレベル上げをしようとして毎回迷惑を掛けられてたとかなんとかで嫌になってパーティーから抜けたんだとさ」
安全性の考えられてないレベル上げを何度もさせられそうになったら愛想を尽かしても仕方のないことだろう。
まぁその原因を作ったのは俺だろうからあいつらに同情する気持ちはあるが、仲間を簡単に見捨てるっていうのはどうなんだろな。他所のことなんてどうでもいいけど、仲間なら諭してやればいいのに。
「ふーん、そっか。へぇ、そうなんだ……」
「……お前、もしかしてあいつを仲間に引き込もうなんて考えてないよな?」
「んー。さぁ、どうだろうな」
そう言葉を濁すカイルだが、その目はもう完全にザックを勧誘する気満々といった様子で、口元には笑みを浮かべている。
「正気かよ」
「まぁ、どっちみち兄ちゃんたちが抜けたらその穴を埋めるために誰か入れようとは思ってたんだ。この前みたいなこともあるわけだし、できれば強くなるのに貪欲なやつをさ」
そう言ったカイルはザックの下まで歩み寄って行き、その場でしゃがみ込んでいくつか言葉を交わすと、ある程度の話がついたのかザックは腹を押さえながら訓練場を後にした。
「……えぇ」
いや、うそだろおい。