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話し合い

「……はぁ」


 ギルドを出て少ししたところで緊張が解け、張り詰めていたものが切れた瞬間にそれがため息と共に漏れ出る。


『……アスマ君……大丈夫?……マスターさんに……なにか嫌なこと言われたの?』


 その姿を見て心配してくれたのか、クレアがこちらを見上げてそう言ってくる。

 が、少し頭の中を整理してから話したいので誤魔化すようにその頭を撫でながら答える。


「いや、むしろ逆かな。思ってたよりもなにも言われなかったことに安心したというか、でも、考えないといけないことができたというか」

『?』

「ってまぁ、これじゃあなにを言いたいか分からないよな。悪い、家に帰ったらその辺りの話をミリオも交えてするよ。だから、今はちょっと待っててくれな」


 苦笑い気味にそう言うと、クレアは頭の上に疑問符を浮かべるような表情をしながらも一応納得を示すように頷いてくれた。


「ありがとな」


 こちらの意を汲んでくれたクレアに感謝し、手を繋いで言葉もなく二人で並び歩き、ほどなくして家へと辿り着いた。





 そして、数日ぶりに再開したミリオにただいまの挨拶をして食事などを済ませた後に、卓を挟んで二人と向かい合うようにして座る。


「それで、話って?」

「あーっと、そうだな。じゃあ、まずはさっき簡単に話した黒い獣について詳しく話していこうかな」


 どこから話すべきかを迷っていたところでミリオから声が掛かったので、ごちゃごちゃとした思考を一度放棄し、この話し合いにおける一つの中核的存在とも言える獣について分かっていることを話すことにした。


「──って感じで、戦ってる間にどんどん強くなって、最後にはまぁ、俺が負けたけど、相手が引いてくれたから実質引き分けにもつれ込んだって言える、かな」


 あれは屈辱的な敗北だったのであまり話したくはなかったのだが、ありのままの事実を語らないことには話が進まないので、正直にすべてを話す。


「なるほど。アスマだけがギルドマスターに残るように言われたのはそういうことか」


 すると、ミリオは今の話だけでグランツさんとの話をある程度理解したようで、口元に手を当ててなにかを考えながら頷いている。


『……それって』

「うん。つまりあの人は、アスマのスキルという能力が黒い獣と同質、あるいは汎用性からみるとアスマの方が能力的に上だから、彼にその力を与えたのが魔族の、それも上位の存在なんじゃないかって疑ってるんじゃないかな?」

「さすが、ミリオさん。ご明察だよ」


 相変わらずの察しのよさに心底驚きながらも、こいつならそれぐらいのことは難なく推察してくると思わせるところがミリオのすごいところだ。


「まぁ、そこまで似ているとそう思われても仕方ないだろうね。となると、僕としても聞いておきたいんだけど、アスマは魔族側の人間だってことになるのかな? それも、現魔王の支配体制が気に入らない反魔王派の」

『……え?』


 ミリオの言葉を受けて動揺の声を上げてこちらを見るクレア。

 だが、そこにはこちらを疑うような気配は一切見受けられず、ただ純粋に驚いて見えることに安堵し、その視線を真っ直ぐに受け止めて微笑んでみせる。


「いや、俺は魔族側の人間じゃないよ。もしかしたら、この力を俺に与えたのは魔族かそれに近しい存在なのかもしれないけど、俺がそいつらの仲間ってことはない。少なくとも俺の認識では、だけどな」

「アスマ自身の認識では、か。それはまた難しい話だね。こっちからは確かめようがないんだから」

「そうだな。だからまぁ、そこは信じてくれ、としか言いようはないんだけど、それも難しいよな」


 俺が嘘をついているのだとすればそれを確かめる手段もあるだろうが、認識自体を誤魔化されていた場合にはそれも意味のないことだ。

 ミリオとはそれなりに良い関係を築けているとは思うが、この場合においてはそれも意味をなさないしな。

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