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疑念

「……なるほどな。つまり、依頼自体は達成したがワイルドボアのリーダー──だったものが変異した黒い獣には逃げられた、と。そういうことだな?」


 冒険者ギルド・執務室にて。

 机を挟むようにしてギルドマスターと向かい合い、今回の任務の報告と、そこで発生した変異体についての話を終えると、グランツさんは顎をしごくような仕草をしてそうまとめてみせた。


「ん。逃げられたってよりは、見逃されたっていったほうが適当だけど、まぁ大体そんな感じだよ」

「そうか。ま、なんにせよ一人も欠けずに戻ってこれたのは幸いだったな。ってことで、とりあえず報告は以上ってことでいいんだよな? なら、受付で報酬を受け取ったらもう帰ってくれて構わんぞ。厳しい戦闘だったんなら疲れてんだろ? しっかり寝て体を休めろよ」


 グランツさんは判子を押した書類をカイルに手渡すと、思っていたよりもあっさりとそう告げて話を打ち切る。

 正直なところ、もう少し深く色々なことを聞かれるものだとばかり思っていたので拍子抜けしたような気になるが、肉体的、精神的な疲れから今すぐにでも横になりたい気持ちで一杯だったのである意味で助かったとばかりに、踵を返してみんなに続いて出口へと向かおうとする。


「おっと、アスマ。お前だけはまだ話が残ってるからもう少しここにいてもらうぞ」

「……はいよ」


 だがそこで、やっぱりかと内心思っていたとおりの言葉を掛けられ、観念して諦めるような返事と共に体を反転させてグランツさんと向き合う。


「え? なんで兄ちゃんだけ?」

「あん? そりゃお前直接的に黒い獣ってやつとやり合ったのも、その主っていう魔族に会ったのもこいつだけなんだから当然だろうよ」

「……あー」

「納得したか。なら、こんなところで時間潰してないでさっさと帰った帰った」


 グランツさんが手をひらひらと振ってカイルたちを追い払うような仕草をみせると、各々が別れの挨拶をして部屋を後にするが、クレアだけはその場に残りこちらを窺っていた。


「どうしたクレア。帰らないのか?」

『……えっと……ここでお話が終わるの……待ってちゃ駄目?』


 そう聞かれたところで俺には答えを返すことはできないので、グランツさんに視線を向けて答えを求める。


「嬢ちゃんには悪いがそいつは遠慮してくれ。こっから話すことはちっとばかし込み入ったもんになるからよ、とりあえずのとこは俺とこいつのサシでしてぇんだ。内容が気になんならあとでこいつから聞いてくれても構わねぇし、話が終わんのを待ってたいって言うんなら受付のとこで待っててくれても構わねぇ。だから、今だけはこいつを貸しておいてくれや」

『……わかった』


 グランツさんからの答えを聞いたクレアは、聞き分けよくそう言うと最後にもう一度こちらへと視線を向けてきたので「悪いな」というように苦笑いで返すと、一つ頷いて部屋を出ていった。


「さて、と。ほんじゃ、嬢ちゃんも待ってることだしちゃっちゃと話を終わらせるとするか」

「あぁ、そうしてくれると助かる。こっちもそうできるように協力するからさ」

「おう。なら単刀直入に聞くが、お前、何者だ?」


 そう言ったグランツさんの表情は今までに見たこともないほど真剣なもので、そこにはこちらの挙動を一切見逃さないという意思のようなものが感じられ、少し気圧されてしまうがなんとか持ち直して口を開く。


「何者、っていうのはどういう意味だ?」

「言葉どおりの意味だ。人間と同じで魔族と一口に言ってもその中で様々なやつがいるし、当然善悪もある。現魔王のランドグリムのような者であれば、目的によっては人助けのようなことをする場合もあるだろう。だが、お前と黒い獣の戦闘を止めたっていう魔族は話を聞く限りじゃ間違いなく俺たち人間にとっての悪だ。そんなやつがどうしてお前を見逃した?」

「それは……分からない」


 あの時。あの魔族はなにかを言っていた。でも、それを俺は聞き取ることができなかった。

 あいつが言うには俺がそれを知るのはまだ早い、つまり知る権利を持っていないということで、その権利を手に入れる方法が分からない。

 だから俺にはこうして「分からない」と答えることしかできない。


「分からない、か。俺としてはお前が魔族側の、それも魔大陸から来た存在だからだと思っているんだが、どうだ?」

「……は?」


 なにを言ってるんだ? この人は。


「その反応をみると、どうやら違うみてぇだな」

「いや、当たり前だろ。どこをどう見たら俺が魔族に見えるんだよ」

「あ? 誰もお前が魔族だなんて言ってねぇだろうが、魔族側の存在って言ったんだよ。付け加えるとするなら、魔族の中でも上位のやつの関係者だ」

「ねぇよ。なんでそうなる」


 あまりにも荒唐無稽な推測に思わず呆れてしまうが、グランツさんは冗談でそれを言ったつもりではないようで、「おかしいな」とでもいうように首を捻ってみせる。


「さっきは言わなかったが、昔俺も戦ったことがあんだよ。お前の言ってた黒い獣ってやつとよ」

「え、そうなのか!?」


 その言葉に驚いてグランツさんに勢いよく問い掛けると、彼は「あぁ」と言って頷いてみせた。

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