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討伐106

「調子に乗ってんのは、お前もだろうがっ!」


 足下から突き上がってくる土槍を躱し、避けることが難しいと思っていた土の散弾を更に強化された身体能力で無理やりくぐり抜け、足場を消失されてしまえば《力の収束》を用いて発動した風魔術で乗り越え、ここにきて繰り出された初見の魔術──トラバサミのような設置罠──を力任せに踏み潰して、獣までの道のりを一気に駆け抜ける。


「黙れ! 俺の同胞を、俺の領域を、俺のすべてを奪おうとする貴様と一緒にするな!」

「はっ、どこが違う! お前も人間を殺して、食糧と住む場所を奪って、いい気になってたから俺がここに来たんだろうが!」

「なんだそれは! 貴様は自分こそが正義であるとでも言うつもりか!」

「あ!? 誰がいつ正義なんて振りかざしたよ! ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」


 激昂する獣に肉薄し、右手の土槍を突き出す。

 だが、すでにそれが自身にとって致命的な武器だということを理解したのか、獣は俊敏な動きでそれを躱すと、その牙でこちらの胴体を引き裂こうとしてくる。

 しかし、その攻撃は《行動予測》で事前に察知していたので、紙一重で躱すと体を捻り、逆手に握った土槍を下顎に突き刺す。


「ぐぅっっ! がぁぁぁぁっ!!」

「っ!!」


 その直後、更に力を増した獣が強く頭を振るったことで体が宙に放り出され、土槍を手放してしまう。


「くそっ!」


 唯一の攻撃手段を失ってしまったことに対して「しまった」と思う気持ちが漏れ出てしまうが、獣が出現させた土槍はそこかしこに突き出しているので、一直線でそちらへと向かうが、それを予測されていたのか、直後、土壁に四方と天井を塞がれてしまう。

 そこへ爆発的に高まった魔力が集中し、壁の一面を破壊した時にはすでに左右から超重量の土顎が押し寄せてきていた。


「押し潰れろっ!」


 獣の叫びが聞こえた瞬間に土顎は凄まじい勢いで閉じられ、残っていた三面の土壁も、そこに突き出していた土槍もすべてが押し潰されてしまったが、《不動》の効果で一切の衝撃すらも寄せつけなかった俺は、内部からそれを蹴破り、手近に突き出していた土槍を回収すると、再度獣と向き合う。


「……なんだ、貴様は。なんなんだ、貴様は! なぜ今の攻撃で生きていられる! なぜ貴様のようなものがそれほどの力を有している!」

「知るか! そんなもん、こっちが聞きてぇよ!」


 スキルってなんだよ。なんで俺は他と違う? なんで俺にだけこんなわけの分からない力がある? 誰も知らない。誰も教えてくれない。この力は一体なんなんだ!


「くっ、ふざけたことを!」


 吼え猛り、獣は魔術の行使をやめてこちらへその身一つで迫ってくる。

 それを迎え撃つように手にした土槍を突き出すが、獣はそれを器用に牙で真横から弾き、後ろ足で地面を蹴り上げて俺の腹部に強烈な頭突きを放ってきた。


「がはっ!」


 その激しい一撃に、口から空気に混じって血が吐き出されて、瞬間的に視界が明滅する。


『肉体の損傷が一定の基準に達しました。《起死回生Lv2》が《起死回生Lv3》になりました』


 それにより《起死回生》のレベルが更に一段上昇し、すぐさま体勢を立て直すと、すでに自分自身でも制御できないほどに強化に強化を重ねた力で獣へと襲い掛かる。


「あぁぁぁぁらっ!!」

「ぐぅぅぅぅあっ!!」


 ぶつかり合う槍と牙。

 重なり合うように響く、激しい轟音と舞う血飛沫。


「貴様は、貴様だけは許さんぞ人間! 確実にここで息の根を止めてやる!」

「それはこっちの台詞だ! お前だけはここで殺してやるよ!」


 獣の横っ面を蹴り飛ばし視線が外れたところに死角から土槍を突き出すが、それは突如出現した土壁に遮られて不発に終わり、壁ごと俺を押し潰そうとしてくる獣から逃れるために一度距離を取り、再度躍り掛かる。


「貴様を始末したら次はあの餓鬼共だ! やつらもただでは済まさん! 貴様に与えた苦痛よりも更に大きな苦しみを与えて、じわりじわりとなぶり殺しにしてくれるわ!!」

「──お前はぁっ!!」


『怒りの感情が一定の基準に達しました。《獣の衝動Lv2》が《獣の衝動Lv3》になりました』


 獣の発言に血が沸騰したように熱くなり、《獣の衝動》のレベルが上がったことで更に理性が消失する。


「死ねっ、死ねっ、死ねぇっ!!」

「殺すっ、殺すっ、殺すっ!!」


 もう、互いに理性的な言葉はなく。

 相手を滅ぼすことだけを目的に肉体を酷使し続ける。

 限界の限界を超え、更にその上まで自身を押し上げてまで、ただの原始的な殺し合いを続ける。

 獣はその生存本能のままに、俺は身についた技術と謎の力に突き動かされて、ただただ己の傲慢を振りかざして。


「「がぁぁぁぁっ!!」」


 互いの咆哮が重なり、互いが己の持てるすべてをぶつけ合い、互いが相手を殺すために研ぎ澄ました力は、そうして最後の大一番を迎え、そして──

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