討伐100
「……くっ、三人とも大丈夫か?」
地面に寝そべった状態で三人の無事を確かめるように声を掛ける。
「いつつ。えぇ、なんとか」
「んー。こっちも」
「うん。危なかったけど、直前で魔力の高まりに気づけたのが幸いだったね」
「だな」
そう。今オリオンが言ったように、背後で馬鹿みたいな魔力の高まりを感じ取ったことで事前に魔術の発動を感知し、伏せるように地面へと倒れ込んだことが幸を呼び、誰一人傷を負うことはなかったようだ。
もし、無理に立った姿勢を維持していたら先程頭上を高速で通りすぎていった拳大の石に致命傷を負わされていただろう。
「ねぇ。それより、なによあの魔術の威力。アスマ君たちどんな化け物と戦ってたのよ?」
「いや、俺にもなにがなんだか。さっき見た時はあそこまで異常な威力じゃなかったはずなんだけど……」
振り返って見てみれば、そこにあるのは先程見た一対の絡み合う土塊。中位魔術の《アースファング》なのだが、その重厚さと破壊力、それに規模も段違いで、俺がつけた火やリリアの魔術によって広がった炎はその一撃で消し去られてしまった。
「なにそれ? どういう」
「ねー! みんな、あれ!」
リリアの言葉を中断するように大きな声でそう言ったのはユーリだ。
彼女がそのように声を上げるのは初めてだったので、驚いてそちらへ振り向くと指で何かを指し示していたので更にそちらへと視線を向けてみれば、そこには不気味な黒い靄を纏ったワイルドボアのリーダーが佇んでいた。
「あれ、なに?」
「……ねぇ、ちょっとまずくない。あれって絶対に駄目なやつ、だよね?」
「……だね。少なくとも僕たちの手に負える相手じゃないことは、分かる」
「どうなってんだよ」
明らかに先程までとは様子が違うそれに、驚きと、それ以上に恐怖を感じ、身が竦んでしまうが、ここでなにも手を打たなければその先に待っているのは確実な死だ。
だから、それが嫌なら、今すぐ行動しろ!
「リリア! 《フレイムピラー》の準備! ユーリはその補助!」
「……っ。わ、分かった」
「ん!」
突然大きな声で指示を出されたことに驚いていた二人だが、直後に同意を示し、魔術の準備に入る。
「オリオン! 盾を持ってその二人を守れ!」
「あ、うん!」
そう言って、俺自身も腰からナイフを引き抜き三人の前へと立つ。
正直、俺が前に出たところでなにができるわけでもないが、それでも魔術を発動させるまでの時間を一瞬でも稼がないといけない。勝機はそこにしかないんだから。
だが、すぐにこちらへ襲い掛かってくるかと思っていたリーダーは動く様子がなく、そのうちにユーリの《マジックブースト》がリリアへと付与される。
「アスマ君、いつでもいけるよ!」
「よし、やってやれ!」
「いくよ! 《フレイムピラー》」
魔術が発動した直後、リーダーの足下で魔力が円状に赤く輝く。そして、屹立するように噴き上げる炎の柱。
それは円上いるすべてのものを焼き尽くすべく、激しい熱を放ち、燃え盛る。
「やった?」
豪炎の柱を目にして、リリアは確認するような言葉を誰にでもなく口にするが、その炎が消え去ったあとには、形あるものはなにも存在していなかった──焼け焦げた獣の死体すらも。