討伐99
「《ファイアボール》!」
リリアが掌に集めた魔力を火球へと変換し、ワイルドボアに目掛けて撃ち放つ。
着弾した直後、それは炎を振り撒きながら爆発し獣の身を焼き焦がし、森の木々へと飛び火して舐めるように炎が広がっていく。
「ふぅ。これであらかた片づいたかしら?」
「あぁ、そうだな。俺が確認した限りならこれで最後だと思う」
火球の爆発に巻き込まれて地面を転がっていたワイルドボアの子供に止めを刺しながら答える。
放火作業をしながら森を歩いているところで見つけた、こちらの存在に気づいていなかったワイルドボアを遠方からの《フレイムピラー》で大量に焼き尽くし、直前でそれを躱すことができた個体を《ファイアボール》で焼き焦がし、それらの余波で動きが鈍ったものを俺が倒していくという流れで、通常のワイルドボアを十二体、その子供を十体始末していた。
周囲から獣の息遣いなどの気配を感じないことからも、ひとまずこの場にいた個体は全滅させたと思ってもいいだろう。
「そっか。じゃあ次行きましょ、次」
炎に照らされた横顔でそう言って歩き出したリリアは、妙にはつらつとしていて若干元気すぎるような気がしないでもないが、ある意味それが頼もしいと言えなくもないので俺たちもその後に続く。
「あ、そういえばリリア。さっきまた中位魔術を使ってたけど魔力はまだ残ってるのか?」
「えぇ、まだ大丈夫よ。それよりアスマ君はどうなの? さっきまでぜぇぜぇ息荒くしながら歩いてたけど」
「ゆっくり歩いてるうちになんとか息だけは整ったよ。相変わらず疲れてはいるけど、さっきみたいに止めを刺したり、少し走るぐらいなら問題ない」
ユーリに能力向上の補助魔術を施してもらったのも効いているんだろう。一人でいた時よりは遥かにましだ。まぁ、全力戦闘はまだ厳しいだろうけどな。
「オリオンとユーリはどうだ?」
「僕の方も特に問題はないかな」
「んー、同じくだけど、リリアはもう少しゆっくり歩いた方がいいよー。ちょっと前に出すぎ」
そう言ってユーリは俺の言葉には同意を示すが、続けて少し先行しているリリアへ忠告の言葉を投げ掛ける。
「えー? でも今ちゃんと戦えるのは私だけなんだししょうがなくない?」
「はぁ、それでもだよー。リリアが調子に乗ってる時はろくなことが起きないって、そろそろ学習して欲しいんだけどー」
「なっ、別に調子になんて乗ってないわよ!」
「ほんとにー?」
ユーリの言葉に対して、リリアは心外だとばかりに大きな声で反論を返すが、ユーリにじっと見詰められて問われると「うっ」と声を漏らして視線を逸らした。
「ま、まぁ、たしかに褒められて少し気持ち良くなっちゃってた部分はある、かもしれないわね。えぇ、それは認めるわ。あーもう、認めるからそんなじっとりした目で見るのやめてよぉ!」
「んー。じゃあこっち戻っておいで」
ユーリが手招きをしてそう言うと渋々といった感じでこちらへと歩み寄ると、同じ歩調で歩き出した。
「はい、おかえりー」
「……ただいま」
……なんのやり取りだよ。
と、少し呆れつつも、そうして四人で体力消費を抑えつつゆっくりと歩き続けていると、不意に「ん?」とオリオンが疑問の声を上げて辺りを見回し始めた。
「どうしたオリオン? なにかあったのか?」
「いや、なにかっていうか、さっきからこの音、どんどんこっちに近づいてきてない?」
「え?」
オリオンが指で真上を指して言うこの音というのは、たぶんワイルドボアのリーダーが放っている魔術による激しい衝突音のことだろうが、耳を澄ませてみても先程から鳴り響き続けているせいか感覚が麻痺してあまり実感を持つことできない。
でも、そういった直感のような感覚は大事だ。それを無視したことによって痛い目に遭ったりなんてすれば笑えないし、ここはその感覚を信じてみよう。
「……正直に言えばそんな風には感じないけど、そう聞こえたっていうんなら安全策を取ってとりあえず今すぐにここを離れよう。みんな走れるか?」
俺の言葉に二人は「うん」と頷いて同意を示したので、「いくぞ」と合図を出して駆け出し、その場から離れていく。
……結果から言えば、その判断は正しかった。
なぜなら、俺たちがその場を離れて幾ばくもしないうちに、そこはあいつの、あの魔術によって、押し潰されてしまったからだ。




