討伐97
「《アースウォール》!」
それは突如として目の前に出現した土壁によって阻まれる。
「え?」
驚き、声のした方を振り返るとそこには三人の男女の姿があった。
「リリア、オリオン、ユーリ。お前たち、なんで?」
そこにいたのは、この戦いが始まる前に比較的安全な場所へと退避させていた仲間たちだった。
リリア、オリオンはここまで走ってきたのか、その額には大粒の汗が滲んでいて、オリオンに背負われているユーリはまだ本調子には程遠いようで血の気の足りていない青白い顔をしている。
だが、それでも三人はそれぞれが笑顔を浮かべてこちらを見ている。
「なんでここにいるのかって? そんなの、決まってるじゃない」
リリアは俺の目を真っ直ぐに捉えて、手を差し出しながら答える。
「力になりにきた。この状況でそれ以外にあると思う?」
茶目っ気のある表情でそう言って、「ほら、早く立って」と、やや強引にこちらの腕を掴むと彼女は俺を引き起こすようにして立ち上がらせる。
「それにしても随分とボロボロにされたわね? その様子だとまたあれを使って力が出せなくなっちゃってるって感じ?」
「え、あ、あぁ。ご覧の通りだよ」
「そっかそっか。なら、ここへ来たのは大正解だったみたいね!」
と、リリアがはしゃぐように言ったところで、土壁を回り込むようにしてワイルドボアがのっそりと歩み出てくるが、こちらを警戒しているのかすぐさま攻めてくるような気配はない。
「ちっ、頑丈なやつらめ。リリア、まだ魔術は使えるか?」
「うん、余裕で」
「なら、二体任せてもいいか? 残りの一体は俺が片づけるから」
「んー、それでもいいけど、それより先に一つ聞いてもいい?」
この状況で呑気にそう問い掛けてくるリリアに、なにを考えているんだと思いつつも「なんだ?」と聞き返す。
「その手に持ってる松明だけど、もしかしてそこらで火が上がってるのってアスマ君がやったの?」
「……あぁ、俺がやった。けど、それにはわけがあって」
誤解を受けているかもしれないので、それを解くために簡単にその理由を説明しようとするが、リリアは顔の前で左右に手を振る。
「あー、別に責めてるわけじゃないのよ? なにか理由があってやってるんでしょ? それは分かってるから」
何度も頷いて、リリアは分かってる分かってると態度で示してくる。
「でも、だったらいいってことよね?」
「え?」
「燃やしても、いいってことよね?」
「え、あ、おう」
俺の言葉を聞いたリリアはにやりとした笑みを浮かべ、仲間の方へと振り返る。
「ユーリ! お願い!」
「ん、《マジックブースト》」
ユーリから補助魔術を受けたリリアは、おもむろに杖の先端をワイルドボアに向けた。
「アスマ君。さっきの話だけど、あいつら三体とも私がもらうわね」
「は?」
「いくわよ!」
その掛け声になにかを感じ取ったのか、ワイルドボアたちが一斉にこちらへ駆け出してくるが、その瞬間、大きな魔力反応が現れリリアが魔術を発動させる。
「《フレイムピラー》!」
それはとてつもない熱気を放ちながらワイルドボアたちの足下から噴き上がったすべてを包み込むかのような炎の柱だ。
その熱さに思わず腕で顔を覆い目や喉を守るが、それはまるで幻かなにかであったかのように瞬時に消え去り、あとには黒く焦げた獣の焼死体だけが残されていた。