討伐96
そして、こちらを視界に捉えた瞬間怒気を含んだ咆哮と共に三体のワイルドボアが駆け出してくる。
奥に控えて子供を守っている個体と合わせるとその数は十体以上になるが、たとえ三体のワイルドボアだろうが今の俺が相手をするには荷が重いので即座に身を翻して走り出す。
だが、当然逃げ切れるわけもなくその差は徐々に狭まっていく。こうなってしまっては追いつかれてしまうのは時間の問題なので、苦し紛れに相手の顔に目掛けて風魔術の《ウインド》を放つが、僅かな衝撃をその身に与えただけで大したダメージには繋がってはいないようだった。
そのうえ一時的とはいえ足を止めてしまったことでその差は致命的にまで縮まってしまい、肉薄してきたその巨体を避けるために真横へと身を投げて木の幹に体を隠すと風を切り裂くような勢いですぐ傍を駆け抜けていく。
そうして相手との距離が開いた隙に木へ飛びつくと、窪みや樹皮の剥がれた部分に手足を掛けて太い枝のあるところまで登っていき、そこへ腰を下ろすと安堵からため息を一つ漏らす。
さすがにここならあいつらも登ってこれないだろ。まぁ、下りたらやられるから実質俺も下りれなくなったわけだけどそれは仕方ない。とりあえずはここで休んでおこう。
そう思い幹に背を預けて息を整えていると、通りすぎていったワイルドボアたちが引き返してきてこちらを見上げながら威嚇の声を上げてくるが、だからといってこちらに何ができるというわけではないので特に行動を起こすこともなく静かにその光景を眺め続ける。
すると、そのうちの一体が距離を取るように少し後ろに下がり、直後に助走をつけてこの木に勢いよく頭を打ちつけてきた。
「うおっ!?」
その一撃は強烈で、けたたましい音を響かせながら木全体を大きく揺らし、それによって危うく落下してしまうところだったがなんとか枝にしがみつくことで難を逃れる。
が、それが効果的なのだと悟った他の二体もそれに倣い突撃を開始するとますます揺れは激しいものとなり、それが幾度か続いた後幹の根元が軋むような嫌な音を立て木が倒壊し始めた。
「嘘だろ!?」
徐々に傾いでいく視界に危機感を覚え隣の木へ飛び移ろうと試みるが、枝が弱くなっていたのか掴んだ途端にへし折れて地面へと落下してしまう。
「がはっ!」
背中から落ちたことにより衝撃で肺から空気が漏れだし、その痛みによって悶えていると重厚な足音と共に迫ってくる巨体が視界に映り、そして──