討伐94
「ぐぅぁぁあああああっ!!」
だが、直後に背後から獣の咆哮と、硬質なもの同士がぶつかり合い崩れ落ちるような炸裂音が足下を揺らすほどの振動を伴い響き渡ってきた。
なにが起きたのかと顔だけで振り返ってみれば、そこには先程まで存在していなかった大木を包み込むほどの巨大な土塊が出現していて、火を放ったばかりの草木がすっかり隠れてしまっている。
「……これは」
土塊の全体をよく見てみれば、それは両手の指を交互に組み合わせたように二つの土塊が絡み合っているようだった。
その特徴を持つ魔術は知っている。
土系統の中位魔術。対象の左右に展開した上顎と下顎のような形の土塊を噛み合わせ、その質量により内部の相手を圧殺する重厚な粉砕魔術だ。
下位の魔術と比べると圧倒的に魔力の消費量は大きいが、それだけに広範囲を絶大な威力で覆い尽くすことのできる魔術であり、炎程度なら余裕で飲み込み消し去ってしまえるだろう。
……まだこんな奥の手を隠し持ってやがったのか。
正直、スキルを使える状態なら《危険察知》が発動してからでも躱すことはできるだろうが、今の状態でこれを発動されていたら確実にやられてしまっていただろう。
何故ここまでこの魔術を温存していたのか。魔力の消費を抑えるためか、万が一にも仲間が巻き添えになることを嫌ってか、その辺りが理由だとは思うがなんにせよ使われることがなくてよかった。
けど、早速一つ火元を潰されたのは痛手だ。もっと手早く炎を広げていかないとこれじゃああっという間に消火されて時間を稼ぐことができなくなってしまう。
さっきのダメージが響いて体力的に少しきつくなってきたけどここからはもっと速度を上げていくぞ。
走って、走って、走って、乾燥してよく燃えそうな草木や落ち葉に火を燃え移らせていく。
ほぼ全力で走り続けているので酸欠で胸が苦しくなってきたうえに、自分で火をつけたところや、火だるまにしたワイルドボアが炎を振り撒いている場所から立ち上る煙が時折こちらへと流れてきたことが原因で頭痛が酷い。
あとどれぐらいの時間を稼げばいいのかが分からないのも精神的に辛く、体の動きが鈍ってきた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
……くそっ、駄目だ。これ以上無理をしたら本格的に動けなくなってしまう。どこかで少し休息を取らないとまずい。
でもこの辺りは熱さと煙が酷くて休めたもんじゃない。もう少し奥に移動しよう。