討伐93
「って、そうだクレア! お前、目眩まし使うなら言えよ! 使おうとしてるのにギリギリ気づけたからよかったけど、もう少しで俺も巻き添え食らうところだったじゃねぇかよ!」
一息がついたところで思い出したようにカイルは先程の《フラッシュ》に対しての文句をクレアへとぶつけるが、必死で戦っている状態のクレアから返事がもらえないことに気づくと不満そうな顔をしつつもそれ以上なにかを言うつもりはないようだった。
というかカイルのやつ、戦闘中に敵から目を逸らすなよ。危ないな。
それが余裕の現れなのか、単純に警戒心が足りていないだけなのかは分からないが、作業の手を止めることなく若干の呆れを込めた視線をカイルへ向けているとそれに気づいたカイルがこちらへと視線を寄越し、ぎょっとした顔をする。
「いや、なにやってんだよ兄ちゃん!? 燃えてる燃えてる!」
カイルは炎が燃え移っている草木を指差して焦るように指摘の言葉を掛けてくるが、元よりこちらはそれが狙いなので笑みを浮かべてそれに答える。
「おう、今からちょっとこの森燃やそうと思ってるからよろしく!」
「いやいやいや、はぁっ!? わっけわかんねぇ! どういうつもりだよ?」
「その辺はあとでクレアに聞いてくれってことで」
意味が分からないとばかりに絶叫を上げて疑問を投げ掛けてくるカイルだが、それを一から説明している暇はないのでそこはクレアに任せて木々の合間へと歩を進めていく。
「待てっ!! 貴様、自分がなにをしようとしているか理解しているのか! 諸共心中するつもりか!」
「はっ! ふざけんな、お前なんかと一緒に死んでたまるかよ!」
それに待ったを掛けるようにそう言ってくるリーダーの言葉を鼻で笑い飛ばし、そんなつもりは毛頭ないとばかりに強い言葉で返す。
「ならば今すぐにその炎を消せ!」
「嫌だね! 消したいのならお前が消せ!」
「っ貴様ぁ……!」
「おい、こっちばっかり気にしてていいのか? こうしてる間にも向こうじゃどんどん火の手が上がっていってるぞ!」
体を炎で包んだワイルドボアを放った方向へ手を向けそちらを見ると、想像以上に火の回りが早いことに少し驚いたが、順調に火が燃え広がっているようだった。
「ここまできたらもうお前が魔術を使ってどうにかしない限り火を消し止めるのは無理だぞ? ほら、早くしろよ。仲間諸共全焼したくないのならな!」
「くっ!」
そこまで言って、俺はリーダーから視線を外すと正面に向き直りその場から走り去る。更に火の手を上げ、やつの魔力をすべて使い切らせるために。