討伐91
「魔力の残り的にも辛いかもしれないけど、頼めるか?」
クレアに負担を強いることに対して抵抗がないわけではないし、危険な目に遭わせてしまうことに躊躇いがないわけでもないが、これが現状で取れる俺なりの最善策であり唯一リーダーの魔術を完封するための手段であると思える。
だから、それがどれだけ心苦しいものであっても俺にはこうして頼み込むことしかできない。
そんな情けない頼み事に対して、俺の心情とは正反対にクレアは笑顔で頷く。
『……うん……わかった……アスマ君に危ないことをさせるのは嫌だけど……でも……アスマ君が頼ってくれて嬉しいから……私も頑張ってみる』
そして、俺の手を小さな二つの手で包み込むように握り締め、こちらの瞳を覗き込むように視線を合わせると──
『……だから……絶対に生きて帰ってきてね』
俺の思考を見透かしたかのような言葉でそう釘を刺してきた。
「……」
『……もう私は……アスマ君がいなくちゃなにも頑張れなくなっちゃったから……なにも楽しめなくなっちゃったから……だから……私を置いて先にいかないでね』
途中から泣き笑いのような表情を浮かべてそう言ったクレアの手を握り返し、安心させるように笑顔を作って答える。
「あぁ。当たり前だ。クレアは俺にとってなによりも大切な子だ。そんな子を悲しませるようなことを俺がするわけがないだろ。約束するよ。なにがあっても絶対にクレアへのところに帰ってくるって」
……この子はずるい。
俺の性格を知り尽くしたうえで、こう言われたら俺がそう答えるのを分かっていてそんなことを言ってくるんだから。
でも、そのおかげで決心がついた。どんな目に遭っても、どんなことがあったとしても、どんなことをしてでも、最後の最後まで諦めることなく、それがどんなに生き汚くても絶対に生き延びてみせるという気にさせられた。
どんな困難でも乗り越えられるような気にさせられてしまった。
「さぁ、やるぞクレア。こいつらに勝つために」
『……うん……やろう……みんな無事で帰るために』
お互いに強い笑みで頷き掌同士を打ち合わせると、擦れ違うようにして歩き出す。
俺は敵から離れていくようにして木々の合間へと。反対にクレアは敵へ近づいていくように、それぞれが別の方向へと歩き出す。
それは決別ではなく、互いの生存のための別離。
ここが正念場だ。生きて帰るために、ここですべてを終わらせてみせる。




