討伐89
「クレアッ!」
タイミングを見計らって大きな声でその名を叫び、クレアの視線をこちらへと向けさせる。
その際に、こちら側に顔を向けていたワイルドボアも反応を示すが、それは無視して驚いたように目を見開いてこちらを見詰めてくるクレアに続けて次の言葉を投げ掛ける。
「《フラッシュ》!」
ワイルドボアのリーダーによる魔術の介入がいつ行われるのかが分からない以上は余計な時間を消費している余裕はなく、こうして一言だけでクレアに魔術の発動を頼むが、急に現れてそれだけを口にしてもやはり伝わらなかったようで『え?』という風にきょとんとした顔をしている。
だが、直後にそれが魔術発動の要請だということが伝わったようで、クレアは魔刃を解除するとその手に嵌めた腕輪へと魔力を流し始めたようだった。
そうなると、当然それを察知した数体のワイルドボアがクレアへと攻撃を仕掛けようとしてくるが、そうはさせまいと腕を前に突き出して魔術を発動させる。
「《ウインドスラッシュ》!」
それは魔力によって生成した風の刃で遠間にいる敵を切り裂く風系統の魔術。
クレアに押し寄せるワイルドボアへ向けて射出した《ウインドスラッシュ》は、なんとかクレアに当たることもなく周囲の敵へと命中し、顔や足の皮膚を切り裂いて相手を怯ませることに成功する。
この魔術の本来の威力を発揮できていれば命中した箇所を切断することも可能なはずなのだが、俺の魔力操作技術ではそこまでの効果を引き出すことはできず、少しの距離でも威力が大幅に減衰してしまうのが難点だ。
でも、あくまで今の攻撃は敵を牽制するための一撃であり、クレアに襲い掛かろうとしている相手の動きを抑制することさえできればそれで良かった。
その甲斐あってクレアの掌にはすでに拳大の光球が形成されていて、一度視線をこちらに寄越したあと掌を真上に掲げるとクレアは頭上にそれを放ち、一瞬で辺りが光の爆発に包み込んでいく。
その直前に目を瞑っていたにも関わらず目蓋越しに強烈な光を感じたのでそれに対応できなかったものの視界は確実に潰せただろうと確信して、俺は目を閉じたままの状態で走り続けそこにいるであろう敵の背後へと勢いを乗せた飛び蹴りを食らわせる。
「らっ!!」
全力で放ったその蹴りは上手く相手の身を捉え、僅かにではあるがその巨体を蹴り飛ばすことができたのでそれを確かめるためにそろそろと目を開いてみれば、それはいい具合にクレアの傍に倒れ伏していた。
周囲へと視線を向けてみればワイルドボアたちは未だに視界を取り戻せていないようで、各々が頭を振ったり暴れたりしている。




