討伐88
『……どいて……邪魔しないで!』
ワイルドボアによる包囲の網を斬り裂かんとばかりに、クレアは魔刃を纏わせた小剣を振るい、鬼気迫る表情で周囲に威嚇の叫び声をぶつける。
……こんなに感情を剥き出しにしているクレアは初めて見た。
どちらかといえば控え目な性格をしているクレアは、あまり強い感情を表に出すことはないのだが、俺がここまでの傷を負ってしまう原因を作ったあの白いワイルドボアのことが許せなかったのか、こうして怒りの感情を前面に出して剣を振るっているようだった。
だが、相手による全方位からの圧力と数による隙のなさを一人で突破するのはそう容易なことではないようで、ワイルドボアたちによる付かず離れずを繰り返す動きに翻弄され、攻めあぐねているようだった。
いや、確かにそれも包囲網を破ることができない要因の一つではあるが、それよりも更に明確な原因がある。
それは、クレアの体力と魔力の消耗による急激な戦闘力の低下だ。
元よりクレアはそれほど体力的に優れている子ではなく、戦闘訓練を行っていた時も途中でバテてしまうことが何度かあったぐらいだ。
魔力に関しては人並みかそれ以上にあるのかもしれないが、それにしても魔刃などという高密度の魔力を武器に纏わせる技を多用していればすぐに底をついてしまうのは当然のことだろう。現に先程と比べ明らかに剣を覆っている魔力の光が弱くなってしまっている。
ここに来る前にも俺が相手を頼んだ相当数のワイルドボアを相手にしていたとのことなので、そうなってしまうことはクレア自身にも予想できていたことなのだろうが、よほど頭にきていたのか感情を制御することができずにここまできてしまったようだ。
だが、それもこれもすべては俺が原因となって起こってしまった事態だ。
俺があれだけの数のワイルドボアを押しつけなければ、俺が失敗してここまで追い詰められなければ、頭の良いクレアがこんな失敗を犯すわけがないんだから。結局はこの状況も俺の至らなさが招いてしまった事態だ。
だから、この事態を収拾するのは俺の役目だが、それよりも今はクレアの助けに入るのが先だ。このままでは遅かれ早かれクレアは限界を迎えてあの獣たちの餌食になってしまう。
そんなことは絶対にさせない。させてたまるか。そんなことになるぐらいなら今ここで死んだほうがマシだ。
だが、タダで死んでやるつもりなんて気は毛頭ない。俺が死ぬのならば対価としてこいつらを全員道連れにして死んでやる。それが俺の覚悟だ。
さぁ、いくぞ。