討伐85
腰から多目的に使用している大ぶりのナイフを引き抜き、クレアが放置していったワイルドボアに迫る。
武器ですらないこの刃物でどれだけやれるかは分からないが、それでも素手よりはいくらか効果的だろう。
目の前には五体のワイルドボアがいるが、そのうち二体は先程のクレアの斬撃で片足を切断されているので数には含まず、残りの三体を二人で倒さなければならない。となるとこの場合は──
「カイル、そっちの二体任せるぞ!」
「おう!」
こうするのが一番だろう。
カイルもクレアと俺の会話を聞いていたようで、俺がスキルを使えない状態なのを察していたのか特になにを言うでもなく、すぐさま了承の言葉が返ってきた。
そして、言うが早いかカイルは一気に速度を上げると、正面にいたワイルドボアに勢いよく突きを放った。
本来ならそんな分かりやすい攻撃が当たるわけもないのだろうが、先程のショックがまだ抜けきっていなかったのか、そのワイルドボアは攻撃を躱す素振りをみせることもなく眉間の中心を貫かれその場に崩れ落ちてしまう。
「まず一体!」
その早業に感心し俺もそれに続くべく速度を上げてワイルドボアへと接近するが、運悪くそのタイミングで正気を取り戻したようでこちらに強い視線を向けると、威嚇するように大きく一声を上げて飛び掛かるように走り出してきた。
「うぉっ!?」
それをギリギリまで引きつけてから躱し、擦れ違う瞬間に一撃を加えてやろうとしたのだが、思ったように体を動かすことができず半ば倒れるようにしてその場を逃れ、なんとか衝突することは免れる。
先程のダメージが完全に抜けていないということもあるが、やはりそれ以上にスキルを使っている時の感覚が残っているせいで意識がそちらに引きずられてしまい、それが違和感となって体がそれに順応できていないようだ。
これを危惧して訓練の際はスキルを使わないようにはしていたのだが、実戦と訓練では緊張感がまるで違うのでいつものように上手くいかない。
そうして自身の不甲斐なさを嘆きつつも急いで体勢を立て直していると、即座に反転したワイルドボアが再度こちらへと猛突進してくる。
「くっ!」
直撃を食らってしまえばただでは済まないという恐怖から足がすくみナイフを握る手にも多量の汗が滲んでくるが、歯を食い縛って相手を睨みつけ腰を深く落として身構える。
こんなことでびびっててどうする! こうしてまごついている間にもクレアは一人でリーダーに向かっていってるんだぞ! それなのにこんなやつに苦戦している場合じゃないだろ! 思い出せ、いつもの動きを。自分自身の本来の動きを。仲間たちの誰にも遠く及ばないあの動きを!




