討伐83
先程まで追い掛け回されていた相手に自分たちだけで挑めという命令を受けたワイルドボアたちは、それに対して戸惑うような気配を覗かせるが、上位の存在からの命令に背くことはできないと悟ったのか、躊躇いがちにその足を前に出しこちらへと攻めてくる。
あいつ、完全にクレアを狙ってやがる! ふざけやがって!
おそらくあいつの狙いは失態を犯した配下を切り捨てることで直にクレアとカイルの実力を測ることにあるんだろうが、そこには俺に対しての悪意が滲み出していて、どうすれば俺が軽率な行動に出るかを分かってそうしているようでなにもかもが気に入らない。あいつの思考そのものも気に入らないが、それを分かってしまう自分の思考も気に入らない!
「ふはははっ! さぁ、どう出る? 先程のようにまた逃げ出すか? それともそれを庇って前へ出るか? 二つに一つだ。まぁ、どちらを選んだところで貴様の運命は決まっているがな。次は更に惨たらしく、容赦なくその身を痛めつけてやろう。貴様の命の灯火が燃え尽きるその時までな!」
リーダーが俺を挑発するようにそう言った瞬間、俺が一歩を踏み出すよりも先にその前へとクレアが歩を進めた。
『……そっか……あなたがアスマ君にこんなことをしたんだね……うん……分かった』
呟くように小さな声でそう言ったクレアは、直後に強く握った小剣を携えて一気に駆け出す。
「ちょっ、待て! クレア!」
こちらの制止の声が聞こえていないのか、クレアは一切速度を緩めることなく、それどころか一歩ごとに加速しながらワイルドボアたちに正面から突っ込んでいく。
「くそっ! 俺たちも行くぞカイル! 《フィジカルブースト》!」
カイルの肩に手を置き、急かすように声を掛けながらも補助魔術を発動させて、クレアを追い掛けるために駆け出す。
「おう! でも、そんな慌てる必要はないと思うぞ」
「あ!?」
「いや、怒んなって。つか、兄ちゃんは知ってんだろ? あいつの強さ」
思わずカイルに対して凄んでしまったが、その言葉を聞いて多少冷静さを取り戻す。
だが、それにしても心配なことに変わりはなく、気が急いてしまうのは仕方がない。
本当になんで今スキルが使えない。なんでこんなに俺の動きは遅いんだ。もどかしい。
「さっきあいつと、クレアと一緒に戦ってて、間近でその力を見てはっきりと分かったよ。悔しいけどあいつ、まじで本物だよ」
並走しているカイルに視線を向けてみれば、苦虫を噛み潰したような表情をしてクレアの背中を見詰めていた。
確かにクレアの力は俺も本物だと思うがこいつがこんな表情を見せるなんて、俺が見ていない間になにがあったんだ?
と、そうしているうちにもクレアとワイルドボアたちとの距離は縮まっていき、それと同時にクレアの剣に淡い魔力の光が宿る。




