討伐82
『……うん!』
「当たり前だろ、なんのためにここにきたと思ってんだ。兄ちゃんこそそんなボロボロでちゃんと戦えんのかよ?」
「どうだろうな。でも、やらなきゃこっちが一方的にやられるだけだ。だったらやってやる。やってみせるさ」
カイルがこちらを煽るようにして投げ掛けてきた確認に対し、掌に拳を打ちつけて軽く笑みを浮かべてそう答える。
あいつらがこちらを見逃すつもりがない以上は、いずれどこかで決着はつけなくちゃいけないんだ。なら、リーダーであるあの個体が姿を現している今が絶好の機会と言ってもいいだろう。ここであいつの姿を見失えばまた同じように魔術で狙撃される可能性もあるし、俺にとってなによりも許し難いことをしたあいつだけは見逃すわけにはいかない。
スキルは未だに使用可能状態になっていないが、それでもクレアとカイルがいるならばあいつの魔術を妨害することさえできれば十分に勝機はある。
彼我の戦力差をそう判断して補助魔術を発動させるための魔力を高めていると、相手側から大きな笑い声が響いてきた。
「はっはっは。なるほどなるほど。つまりお前たちはあの二体に追われて俺の下まで逃げてきたと、そういうわけか。くっくっく。相手が逃走するのを利用してこの場を突き止めるとは実にいい手を使うではないか。確かにそれならばこの地を理解していなくとも我々の下まで辿り着くのは容易だっただろうな」
尚もおかしそうに笑い声を上げ続けるリーダーの言葉を聞いて、ようやく合点がいった。
どうやってクレアとカイルがこの場にやってくることができたのかと思っていたがそういうことだったのか。
「いやいや、笑わせてもらった。なに、そう怯える必要はない。俺は怒ってなどいないのだからな。それにだ、あの二人を見つける手間も省けたというもの。よくやったと褒めてやってもいいぐらいだ」
上機嫌にリーダーがそう言うと、配下のワイルドボアたちは恐縮して頭を下げる。
「ただし、逃げ帰ってきたというのは頂けないな。それに対しての罰は受けてもらおう。ふっ、殺したりはしないさ。そのように無用な殺生をするほど俺は馬鹿ではないつもりだからな。死ぬ時は意味のある死に方をさせてやる」
そう言って、リーダーは口の端を持ち上げて笑みのような表情を作りこちらへと向き直り、そしてクレアへとその視線を合わせた。
「では、罰を与える。命令だ、お前たちだけであの餓鬼を始末してみせろ。なにを怯えている? できないとは言わせないぞ。それがお前たちの罰であり、役目なのだからな。そら、なにをしている? 行け!」