討伐81
「ん? おい、何故お前たちがこのような場所に」
と、リーダーの視線が俺を越えてその向こうにいる六体のワイルドボアたちへと向けられ、それに訝しむような声を掛けた瞬間、ワイルドボアたちの更に後方から大きな声が響き渡ってきた。
「おらおらっ! ちんたら走ってんじゃねぇ! さっさと逃げねぇとてめぇらもこいつの錆にすんぞ!」
聞き覚えのあるその声に圧されるようにして六体のワイルドボアがこちらへと迫ってくる。
が、それらは身構えた俺の脇を通り過ぎるとリーダーの下へ一目散に逃げ去っていった。
え? なんだ? こいつらは俺のことを待ち伏せしてたんじゃなかったのか?
状況に理解が追いつかず疑問に頭を悩ませていると、先程までワイルドボアたちがいた場所からカイルがその姿を現した。
「おっ? って見つけた! いたぞクレア! 兄ちゃんだ!」
こちらを見たカイルが表情を明るくして背後へと振り返り、手を振りながらそう声を掛けると、少し遅れてクレアも姿を現す。
カイルと同様、クレアも俺が無事なことを確認すると表情を綻ばせていたが、その直後に顔をこわばらせカイルを置き去りにしてこちらへと勢いよく走り寄ってきた。
『……アスマ君!……どうしたのその傷……防具もあちこちボロボロだし……装備もなくなってるし……えっと……これ……とりあえずこれ飲んで!』
クレアにしては珍しく取り乱して、ポーチから取り出した回復薬を半ば押しつけるようにして渡してくる。
「いや、待った。気持ちはありがたいけど、クレアが持ってる回復薬はこれ一本だろ? なら今俺が使うわけにはいかない。これはいざというときのために温存しとけ。俺なら大丈夫だから」
笑顔を浮かべてそう言い、受け取った時とは逆に押しつけるようにしてクレアに回復薬を返す。
クレアの気持ちを考えるとここは素直に好意を受け取っておくべきだろうとは思うが、今この場にある回復薬はこれが最後の一本だ。だったらこれはまだ使うべき時じゃない。使うのであればもっとぎりぎりの場面で使うべきだ。もしくはクレアが自分自身のために使うべきだ。
『……でも……傷が』
「大したことないって。こんなのちょっと痛むぐらいだし。あと、装備は重いから置いてきた」
『……重い?……もしかして……あれ使ったの?』
「あぁ、まんまと罠に嵌められてな。でまぁ、その効果が切れた結果がこのざまだ。笑えるだろ?」
『……笑えないよ』
呆れるような、抗議をするような、心配をするような、なんとも言い難い表情を浮かべてクレアは首を横に振ってみせる。
「ははっ、そっか。まぁ、それはそれとしてだ。そろそろあっちも話が済んだみたいだし、ここからはまた戦闘になるけど二人ともやれるか?」