覗き
…不可抗力とは言え覗きを働いてしまっているこの状況は非常にまずい。見つかれば問答無用で不審者認定を受け、傷の治療を頼むことすらままならない事態になることは必至だろう。
だが、俺の体は先程からまるで言うことを聞かず、石のように固まり脳からの命令を拒否し続けている。理性では早く顔を引っ込めて、入り口を探し助けを乞うのが正解だとは分かっているんだが、それができない。
何故なら、俺が男だからだ!
覗くという行為が悪いことなのは重々承知しているが、女の子たちから視線を逸らすことができない。だって、視線の先にいる女の子たちは三人ともがとてつもない美人さんなんだから。
三人のうち二人は長くて綺麗な白金色の髪の美人で、その肌は透き通るほどに白く、日の光を受けて輝いて見えるほどに繊細だ。しかも片方の女の子は凄く、大きいんだ。胸が。いや、大きいというレベルを超えている。あれは巨乳というカテゴリーすらを超越している乳の最上級、乳の女王。あんなクイーンサイズの胸見たことがない。しかも、あの大きさなのに全く垂れておらず重力に逆らって綺麗な半円形を保っている。神秘だ。今俺は神秘を目撃している。あれが真のおっぱいというものか。
もう一方の女の子は凄く、小さい。胸が。いや、小さいのは小さいので一定以上の需要はあるから、無理に大きくなろうとしなくてもいいんだけどな。現に俺は小さいのも問題なく好きだ。未成熟、青い果実、言い方は色々あるがそういう倫理的にNGっぽいものを愛でるのもまた一興だ。まぁ、別にその女の子自体は然程小さくはないけど。大きい胸も小さい胸も、そこに優劣なんてない。どれも等しくおっぱいだ。差があるとすれば、見た目の迫力と重量ぐらいのものだ。が、そんなものは戦力の決定的な差にはなり得ない。素晴らしいものは全て素晴らしいんだ。うん。
その二人とは違い、もう一人の女の子は絹のように白くて長い髪の美人で、褐色の肌はその白い髪によく映えていて、程良く引き締まっている。特に腰から足にかけてのラインが素晴らしく、まさに肉体の黄金比と言っても差し支えないだろう。胸も大きさ自体はそこまででもないが、先端がツンと上を向いていてなかなかフェチシズムをそそる刺激的な形をしていた。
このように三人の裸体は素晴らしく、落ち込んでいた気持ちも上向きに盛り上がるほどに刺激的だ。
だが、三人の肌を観察している時に気がついたんだけど、三人ともその耳が人とは違い、長く尖った形をしている。
もしかして、エルフなのか? 褐色の子はダークエルフ?
…最高じゃないか。
エルフはゲームや漫画などの創作物に良く出てくる種族の一つでドワーフや獣人等と同様に物語ではよく出てくる代表的な種族の一つだ。特徴としてはその長く尖った耳。長寿だが、出生率が低いため人に比べて人口が少ない。あとは、魔術や弓を使うのが上手いとか。俺の知識にあるエルフ像はこのような感じだが、この世界のエルフがどうだかは分からない。
ダークエルフはエルフの亜種のようなもので、エルフとの違いと言えば髪や肌の色ぐらいのものだが、物語では大体敵役で出て来る場合が多い。この世界ではそういうこともないみたいだけど。
というかエルフがいるってことは、ここはエルフの村なのか?
…エルフって物語なら人に対して良くない感情を持ってたりする場合があるよな。だとしたら見つかったらマジでまずいんじゃないか…。
…名残惜しいけど、そろそろ本気で覗くのは止めた方がいいだろうと思い、鉄の意志を持って頭を引っ込めようとした、その時。白金髪の貧しい胸の方の女の子と目が合った。
「あーーっ!!」
「げっ!」
まずい、見つかった!完全に頭を引っ込めるタイミングを見誤った。
「ちょっと布、布! 前隠して! 覗きよ!」
「え? え? 覗き?」
「…」
貧乳娘は近くに置いてあった体を拭くための布を二人に投げ渡し、自分も布で体を隠し、布の端を結んでいる。褐色娘はまるで動揺した雰囲気もなく、渡された布を仕方なくという感じで肩から掛けている。爆乳娘は、さっと素早く渡された布で体を隠したが、その凹凸までは隠しきることができずにそれはそれでエロい状態になっている。
「ちょっと、アンタ! そこ動くんじゃないわよ!」
貧乳娘は布を結び終えるとこちらに睨みを利かせ、立てた人差し指を向けてそう言ってきたが、言い終える前に俺は反射的に手を放してしまっていた。
「ちょ! 動くなっつってんでしょーがっ!」
俺が地面に着地した瞬間に、貧乳娘の怒号が囲い越しに聞こえてくるが、さてどうしようか。あの子がここに来る前に逃げるか、それとも潔くこの場で待っているか。うーん。
だが、俺が悩んでいると不意に視界に影が降りてきて、危険察知が警鐘を鳴らした。
頭上を確認することもなく後ろに跳ぶと、そこにさっきの貧乳娘が降ってきた。
…この子、この囲いを飛び超えてきたのか? なんつージャンプ力してんだよ。
「ふーん、よく避けたじゃない。変態のくせにいい勘してるわね。でも、覗きを働くような変態には少しきついお仕置きをしてあげるから覚悟しなさいよ!」
褒めたり、貶したり、怒ったりと表情がころころ変わる貧乳娘は見ていて楽しいが、近くで見ると遠くから見ていた時よりも美人度が増していて、そんな子が薄布一枚を羽織っただけの状態で自分の目の前にいる状況に少し興奮を覚えてしまったが、それを表に出さないように必死に抑え込み、それと同時に俺は膝から地面に身を落とすと、両手も地面につけ全力で頭を下げる。そう、土下座だ。
「すいませんでしたっ!!」
「は?」
「ごめんなさい、貴女たちの水浴びを覗くつもりなんてなかったんです! ちょっと訳ありで人を探してた時にここを見つけて、入り口が見当たらなかったんで囲いを乗り越えたらその先に貴女たちがいて、つい見入ってしまってました! すみませんでしたっ!!」
言い訳と謝罪を一気に言い切った俺が顔を上げると、ぽかんとした顔で貧乳娘がこちらを見ていたが、こほんと一息つくと表情を改めて胸の前で腕を組む。
「ふ、ふぅん。訳あり、ね。まぁ潔く謝る姿勢は認めてあげなくはないけど、アタシたちの水浴びを覗いたのは事実だし…そうね、じゃあアタシの分は拳骨一回で許してあげるわ!」
「ありがとうございます! この恩は一生忘れません! おっす!」
「ア、アンタ何かやけくそになってない?まぁいいけど。それじゃ頭出しなさい」
「はい、どうぞ!」
「それじゃ、いくわよ!」
ぐっと奥歯を噛み締め衝撃に備えるが、ぽかっ、という表現が似合いそうな程の軽い拳骨を頭に下ろされた。
「え?」
「はい、おしまい。もういいわよ。うん、許した」
「あー、いや、え?」
え? 終わり? 今ので?
「え?じゃないわよ。いつまでも膝ついてないで立ちなさい。ほら」
貧乳娘はそう言うと、こちらに手を差し出し俺がつられて手を出すと、その柔らかい手からは想像できないほどの強い力で引き上げられ、倒れそうになりながらも堪えて立ち上がる。
「あの。裸を見ちゃったのに、今ので本当に許してもらってもいいんですか?」
「あー、いいわよいいわよ。だってアンタ怪我してるじゃない。そのお腹、訳ありって言ってたのってそれのことじゃないの?」
「あ、はい。そう、ですけど」
「怪我人をいたぶるのは趣味じゃないのよねアタシ。だから、もういいわよ別に。というか、よく考えたら覗いてたとしてもアタシじゃなくてあの二人の体を見てたんでしょ?なら後は怪我を治した後にあの二人にお仕置きしてもらいなさいな」
「いえ、貴女の体も見ちゃってました。すみません」
「へぇそう。貧相な体でがっかりしたでしょ」
「いやいや、綺麗な体でつい魅入っちゃってました。申し訳ないです」
「はいはい、ありがと。お世辞でも嬉しいわー」
お世辞ではないんだけどな。この子自分の美人っぷりを理解してないのか?
というか、この子男前な性格してるよな。美人な上にこの性格ならさぞやモテモテなんじゃなかろうか。
「それじゃ、そのお腹の傷治すために中に入るからついてきて。ほら、歩くのが辛いなら手貸してあげるから」
本当にいい子なんだろうな。水浴びを覗いた相手が怪我をしてるからって簡単に許して、今じゃこうして心配までしてる。危ういぐらいにいい子だ。その気遣いがありがたい。
俺は差し伸ばされたその手を掴もうとしたが、不意に視界がぶれて手が空を切ってしまい、そのまま地面に倒れ込んでしまった。
「え? ちょ、大丈夫!?」
…まずい、このタイミングでスキルの効果が切れた。
痛い! 腹が燃えてるかと錯覚するほど熱い、痛い! 駄目だ、視界が霞んできた。もう意識が…ぁっ……。




