討伐78
「くくっ。無様だな。あれほどの猛威を振るっていた貴様もこうなってしまっては形無しというものだ。はっはっは」
……音が聞こえる。
それがなんの音なのか、どういう音なのかも分からないが、なんとなくそれがこちらに向けられた音なのだということはかろうじて分かる。
だがそれだけだ。仮にそれがこちらに対しての呼び掛けやなにかだとしても、それに応えるだけの力はもう残っていない。俺の体はもう機能の大半が死んでしまっているからだ。
「ふん、すでに聞こえてはいないか。ならばもういい。あとはお前たちの好きにしろ。糧にするもよし、弄ぶにするもよし。捨て置くのもよし、だ」
……音が聞こえる。
頭にガンガンと響く不快な音だ。耳鳴りが止まらない。やめてほしい。
「ただし油断はするなよ。それは未知の力を使う。そこから動き出す可能性は十分にあるからな。では、それに興味のない者は俺に続け。次へいく」
……音が聞こえる。
また頭に響く不快な音だ。やめてくれ。うるさいのは嫌いなんだ。静かにしてくれ。
「次は人の餓鬼が二体だ。それよりは苦戦を強いられるだろうが、俺の指示に従えば問題はない。蹂躙してやれ」
……音が聞こえる。
うるさい。黙れ。いい加減にしろ。頼むから黙ってくれ。
「あぁ、そういえば餓鬼の片方はそれが必死になって庇っていたか。ならば藍色の毛を持つ餓鬼は生かして捕らえることにする。その餓鬼に今のそれの姿を見せた時、どのような顔で絶望するのか興味が出た。くくっ。泣き喚き、深い絶望の中で死を与えてやるとしよう」
…………声が聞こえた。
藍色の毛。ガキ。絶望。死。──藍色の髪の子供。クレア。絶望の中で死?
………誰が、誰を殺すって?
「ほう、まだ立ち上がる力が残っていたか。なるほど、先程の言葉はすべてがはったりではなかったというわけか。面白い。だが、そのような状態でなにができる? なにを見せてくれるというんだ?」
力の入らない不自由な体を感覚だけに頼って無理矢理に立ち上がらせ、半分以上が閉ざされた視界でそれを見る。
こいつか。こいつがあの子を殺すって言ったのか。
「どうした、動かないのか。いや、動けないといったところか。ふん、結局は立ち上がっただけか。くだらん意地を張るものだ」
こいつがあの子を殺すというのなら、俺はこいつを殺す。
だが、思うように体を動かせそうにない。これではあいつを殺せない。
殺すためには動けるようにならなければならない。そのための手段は? ある。実行は可能か? 自力では困難。ならば外的要因を利用すれば? 可能。