討伐77
そんな俺を嘲笑うように、再度叩きつけられる前足。
「ぅぎぃっ!!」
なにかが砕けるような音と共に、先程までとは種類の異なる激痛が腹部を襲う。
おそらくそれは骨が砕けた音とそれに伴う痛みなのだろうが、冗談にならないほどの痛みが発生したせいか筋肉が硬直し、喉が締まってほとんど呼吸もできなくなる。
「っ、ぁ、ぁ、あ」
苦しい。熱い。痛い。
満足に呼吸のできない苦しみ、毒の影響による熱さ、腹部を損傷したことによる痛み。
それらすべてがないまぜとなり、肉体と精神を蝕み自己存在すらもが曖昧になるような感覚を覚える。
「人というものは、何故こうも愚かな存在なのだろうか」
……声が聞こえる。
「そも、森は我らの領域だ。そこへ踏み入り、我らの糧を奪い、住処を奪い、あまつさえ同胞の命すらも奪おうとしてくる。それは何故だ?」
その声には感情というものは宿っておらず、ただ「何故?」という疑問のみが集約されているように感じられる。
「いや、そんなものは聞くまでもないことだ。それこそが貴様ら人の業というものなのだろう。欲深く、傲慢で悪辣な種族それが人だ。なんと度し難い存在か。俺は、そのような存在が我が物顔で蔓延っているこの世界が憎い。貴様のように大きな力を振りかざし、我らの存在を害するものが憎い」
それは人という存在に対しての哀れみなのだろうか。それとも、また別のなにかかは分からない。
だが、一つはっきりとしているのは、所詮こいつもその存在と同じ穴の狢だということだ。
それに気づいているのかどうかは分からないが、こいつは自分自身が自分の憎んでいるものと同じところへすでに堕ちてしまっている。
「だから俺は、貴様を楽に死なせたりはしない。可能な限りいたぶり、死と同等の苦痛を何度も味あわせ、絶望の恐怖と共に殺し尽くしてやろう。くっはっはっは」
下卑た笑い声を上げそう宣告した通り、そこからは地獄のような体験が俺を待ち受けていた。
何度も体を踏みつけられ、何度も体を打ちつけられ、何度も体を蹴り飛ばされた。
俺の体が壊れてしまわないように手心を加えられ、何度も、何度も、何度も、何度も、執拗に肉体を蹂躙され、すでに痛みの感覚すらもなくなってきた。
それどころか、目蓋の腫れで視界も満足に確保できず、延々と耳鳴りが響いてまともに聴覚も働かず、指先を僅かに動かすこと以外はもうなにもできなくなっていた。