討伐73
状況を好転させるような策の取っ掛かりすらも掴めないまま、悲観的なことを考えている間にも毒の進行は着々とその深度を増しているようで、気を抜くと意識が飛びそうになり徐々に視界も霞んできている。
やっぱりこれだけは早く治さないといけない。このままじゃなんの抵抗すらもできず、ただ緩やかに死を迎えるだけだ。
だから、ここは危険を冒してでも解毒を優先しないといけない。
頭が上手く働かず先程から同じような思考を何度もしているような気がするが、とにかく手遅れになる前に早く。
そうして、相手を刺激しないように慎重にポーチへと伸ばしていた手を動かした瞬間、そのすぐ傍に唐突な魔力の高まりを感じ、直後、地面から高速で突き出してきた土槍によって掌が貫かれた。
「ぅぎっ!?」
目の奥で火花が散ったような衝撃に揺らいでいた意識が瞬時に覚醒し、掌に熱した金属でも押しつけられたのかと思うほどの熱を覚え、喉が引きつり自分のものとは思えないような声が漏れ出る。
毒により神経が麻痺しているせいなのか見た目ほど痛みは強くはないのだが、脈が打つたびに掌の中央を貫いた土槍を伝って血が流れ落ち、傷口が燃えているかのように熱い。
「くそ、が」
乱れる呼吸に息を荒げながら口をついて出た悪態を目の前の魔物にぶつける。
状況は先程よりも更に悪くなった。
掌を貫いた土槍によって腕が持ち上げられたことにより片腕を封じられ、解毒薬を取るためには反対側の腕を伸ばすしかなくなったのだが、本格的に力が入らなくなってきた現状ではそれも難しい。
それに加えてこの出血。
傷だけなら回復薬で治療することができるが、流れた血までは回復薬でも元通りにすることはできないので時間が経てば経つほど致命的な状況になってしまう案件がもう一つ追加されてしまった。
まずい。本当にまずい。どうする? どうすればいい?
「愚かなり」
と、その時どこかから老人のようなしわがれた声が聞こえてきた。
突然の声に驚くが、もしかしたら助けになってもらえるかもしれないという思いから周囲に眼球の動きだけで視線を飛ばしてみるが、俺の見える範囲には人の姿は見つけることはできずその存在を確かめることができない。
……幻聴、じゃないよな?
絶望的な状況に身を置かれたことで、現実を受け入れることができず自分に都合のいい展開が起こってくれるのを無意識に願ったことで、脳が風の音かなにかを声と認識してそう聞こえさせたという可能性もないとは言い切れない。
だが、藁にもすがるこの状況では先程の声は幻聴ではなかったと思うことでしか平静を保つことができないので、再度声が聞こえないかどうか耳を澄ませてみる。