討伐71
この不調にスキルが関わっていないのだとすれば、あと他に原因になりそうなものはなんだ?
……分からない。いくら考えても答えが浮かび上がってこない。
でも、それも当然かもしれない。そもそも、今までこんな状態になったことがないわけだし、そういった専門の知識を持っているというわけでもないんだから自分の中から正解を引っ張り出してくることなんてできないんだ。
だから、考え方を変えろ。
体に異常を感じ始めたのはいつだ? それはどんな異常だった?
……始めに違和感を覚えたのはワイルドボアの死体を埋めた時だ。大した作業をしたわけでもないのに体が妙に熱くなり発汗が止まらなくなってしまったのがそれだ。
ただ、そこに原因があるようには思えないので、その時点ではすでに自覚がないだけでなにかの影響を受けていた可能性がある。
なので、記憶を遡ってその前になにがあったのかを思い返してみる。
木の頂点を跳び渡り、蜂型の魔物と戦い、あれを追いかけて森に足を踏み入れ、魔術で空中まで突き上げられたりと、覚えている範囲で記憶を巻き戻していった中でようやく納得ができそうな答えに辿り着くことができた。
確信はないし、まったくの検討違いの可能性もあるが、正直にいってそれ以外に原因らしきものは見当たらなかったので、消去法で考えてもそれが一番可能性が高いと思う。
その答えは──
「毒、か」
そう、毒だ。あの蜂型の魔物の毒だ。
直接毒針で刺されたわけではないので油断していたが、おそらくあの魔物の体液自体にも毒が含まれていたのだろう。それを大量に浴びてしまったせいで皮膚から毒素を吸収してしまった結果がこれだ。
発熱に発汗、異常な倦怠感も体に力が入らないことや吐き気がするほどの気分の悪さと徐々に薄れていく意識。毒について詳しくはないので間違っているかもしれないが、これらすべてがその毒によって引き起こされたと考えれば一応の納得はできる。
それによくよく思い返してみれば、あの魔物との戦闘後にはすでに頭がそれなりの熱を発していたことに今更ながら気づいた。さすがにあれは戦闘による影響だと思っていたが、予兆は出ていたというわけだ。
「そうか、これが毒なのか」
初めて体験する毒の脅威に思わず笑ってしまう。
これは駄目だろ。卑怯すぎる。全身の自由を奪って、意識すらも奪い去ろうとしてくるなんて、こんな凶悪なものを食らわされてしまったら戦闘なんて続行できるわけがない。本当にとんでもないものだ。
でも、だからこそ、これを自分が使う側に回った場合は非常に強力な武器になることは必然だ。
シャーロット曰く、強靭な魔物相手には生半可な毒は効かないとのことだったので、格上の魔物にはこの毒も効果はないのだろうが、それ以外でいくらでも有効活用できそうな気がするのでいくらかこの毒を持って帰るべきかと真剣に考える。