討伐70
だが、それから程なくして、大した距離を移動したわけでもないのに尋常ではないほどの倦怠感が体を支配し、息も上がり更に暑さも増してきたように感じられる。
「はぁ、はぁ、はぁ」
……なんだ、これ。酷い風邪でもひいた時みたいに体がだるい。気分も悪い。
さっきまではそれほど異常は感じていなかったのに、時間が経つごとにどんどん状態が悪くなってるような気がする。
「あっ」
そんな体を引きずるようにしてゆっくりと歩を進めていたのだが、不意になにかに足を取られてその場にすっ転んでしまう。
腕を先につくことでなんとか顔面から地面に落ちることだけは阻止できたが、立ち上がろうとしても手足に力が入らずに起き上がることができなかったので、仕方なく這いずって近くの木に背中を預けて座り込む。
「ふぅっ」
たったそれだけの動作しかしていないのにもかかわらず、深い吐息が漏れる。
そうして一息ついたことで、先程自分がなににつまづいてしまったのかをたしなめてみると、それは地面からほんの少しだけ飛び出ている木の根っこだった。
……あんなのに足を引っ掛けるほど限界だったってことか。これはちょっと駄目そうだな。
自身の体が予想以上にガタついていることを自覚して、更に深くその場にへたり込む。
どうしてこうなった? なにが原因だ?
風邪の症状に似ているとはいっても、風邪とはなにか違う気がする。ここまで急激に体調が悪化するのは不自然すぎる。
じゃあなんだ? と考えてみて、思いついたのはスキルの副作用だ。
《限定解除》を使っている間に無理をしすぎたから体が悲鳴を上げてこんなことになっているとか?
いや、それなら何度かこのスキルを試していた時にも同じような症状になっていてもおかしくはないはずだ。だとすると他になにかあるか?
「……くそっ、暑い」
思考を邪魔するようにどんどんと上がってくる体温が煩わしくなり、防具を外したい衝動に駆られるが、なにかあった場合にこれを着けているかどうかで怪我の度合いがかなり変わってくるだろうと一時は思い止まったが、今の状態でこんな重いものを着けたままじゃいざという時に動けないだろうと考え、結局は兜と胸当て、グローブを外してしまう。
それだけでもかなり暑苦しさが軽減されたような気がするが、まだ暑い。
だが、それ以上の装備を外すという行動すらが億劫になってきたので、他はそのままにして再び思考を開始する。