討伐68
ギリギリもいいところだが、それでもまだ《限定解除》の効果は残っている。
なら、うだうだ迷っていないで足を動かせ。最良の結果を掴み取りたいのなら行動を起こせ。
『アクティブスキル《力の収束》発動』
全力で地面を蹴りつけ、枝葉が爆ぜるほどの衝撃を発生させて跳躍する。
進む先は横穴が空いていたのと同じ方向。その先にいるはずの敵へ追いつくために進行上にある大木に跳び乗り、頂点まで数度の跳躍を繰り返す。
そして、頂点に辿り着いたところで《感覚強化》を発動させ、先程と同じ要領でこちらから走って遠ざかる音を捕捉し、そちらへ跳躍する。
森の中で全力の跳躍をしても、行く手を阻むようにして高くそびえる大木が邪魔をしてなかなか距離を詰めることが難しい。
だがその上、木の頂点を足場として移動するのならその枷は存在せず、何の障害物に邪魔をされることもなく一気に長距離を移動することができる。
ただ、もちろんこの移動方法についても利点ばかりがあるというわけではなく、跳躍に耐えられる木を選んで跳び移らなければならないが、今の状態の俺ならばそれも可能だ。
いつもなら絶対にできないようなことでも、《思考加速》や《死気招来》などの高性能スキルを反作用もなしに使用できるのならやってやれないことはない。
それが《限定解除》の効果であり、だからこそ効果が切れたら大したこともできない元の俺に戻ってしまうんだけどな。
それはそれとして、今も刻一刻とその制限時間が迫っているので無駄なことをしている暇は一切ないことを念頭に置いて、木々の合間を跳び移っていく。
そして、その何度目かの跳躍後、眼下にこちらから遠ざかっていこうとしているワイルドボアの姿を発見する。
全力で走ってさえいなければ案外と小回りが利くのか、ワイルドボアは細かく左右に移動を繰り返して障害物をかわしながら進んでいく。
だが、それももう終わりだ。もう、完全に捉えた。
相手との距離を目算で計り、その速さと次の移動地点を予測して木上からそこへと跳び降りる。
それにより互いの距離が一気に縮まり、ワイルドボアは風の音や臭いなどで背後から迫る俺の存在を感知したのか、びくりと体を震わせ速度を上げ始めたがもう遅い。
ワイルドボアの頭上から急降下した俺は、勢いをそのままにその背を全力で踏み潰す。
辺りに響き渡る轟音。飛び散る血、肉、土砂。
ワイルドボアの背を踏み抜いた足は地面に突き刺さり、踏み抜かれたワイルドボアは痙攣するだけでもうすでに生きてはいないようだった。
突き刺さった足を引き抜き再度よく調べてみるが、間違いなく絶命している。
と、そこでタイミングよく《限定解除》の効果も切れ、どうにか勝利を収めることができたことに安堵の溜め息を漏らす。