討伐67
打ち倒した魔物の残骸を踏みつけながら視線の先にある土壁で作られた物体に歩み寄り、それの目の前まで近づいたところでおもむろに土壁へと全力の蹴りを叩き込む。
『アクティブスキル《力の収束》発動』
一切の加減を捨て、中にいるはずの魔物ごと破壊し尽くすつもりで放ったその一撃はいとも容易くその壁を突き破り、とてつもない衝撃音を伴って瓦解する。
「……?」
だが、それが崩れ落ちた後には想像していたような光景は広がっておらず、そこには何もなかった。
いや、何もなかったというより正確にはそこに魔物はいなかったというべきか。
ただし、変わった点という意味でみれば一目瞭然のことで、そこにはぽっかりと空いた穴があった。
その穴は、先程までここを囲んでいた土壁と同じぐらいの大きさがあり、たとえば俺が寝そべったとしてもかなり余裕があるぐらいに大きく、それなりの深さがある。
そして、よく穴の中を覗き込んでみれば側面にも大きな穴が空いていて、それに気づいた瞬間俺は自分の判断ミスを悟った。
「やられた!」
敵がその横穴から地中を移動してこの場から脱出したのだろうことは容易に想像がつき、なぜその可能性を思いつかなかったのかと地団駄を踏む。
相手が土魔術を扱うのなら馬鹿正直にこの場にとどまり続けているわけがないことは少し考えれば分かることだ。それなのにまた俺はそんな簡単なことにも気づくことができずにあっさりと奥の手を出してしまった。
馬鹿だ。俺は大馬鹿だ。
《限定解除》は使いどころを間違えたら一気に自分が窮地に立たされる可能性のあるスキルなのは理解していたつもりだが、気が逸ってしまい結局はこうして間違えたタイミングで使ってしまった。
大方昨日の活躍を褒められたことで得意気になって、気がつかないうちに味を占めていたんだろう。深く考えることもせず、この場にいる全ての魔物を手早く片づければまたクレアやカイルの驚く顔が見られるかな、なんて驕った思考でも持ってしまっていたようだ。なんて救いようのない馬鹿なんだ。
上手くことが運んでいる時に調子に乗って失敗することは今までにもあったし、それが自分の悪い癖だというのは知っていたのにまたやってしまった。
……どうして俺はこうなのか。いつも大事なところで上手い判断ができない。いつも失敗してしまう。そんな自分を変えたつもりだったのに、結局性根は何も変わっていなかったということか。本当に下らない男だ。
──と、以前の俺ならここで思考を止めて塞ぎ込んでしまっていたかもしれないが、今の俺はそこからもう一歩だけ踏み出す力をあの子からもらっている。
こんな俺を信じてくれるやつらがいてくれるんだ。
だから、この程度のことではまだ諦めない。諦めるにはまだ早すぎる。